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聖剣物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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聖剣物語 109

「アアァ!?誰がビビってるだ!?フザケタ事ぬかすと輪切りにするぞコラ!!」
バンは町のチンピラのようにそう叫ぶと、マティウスの命令で返還された聖剣ダモクレスの切っ先を相手に向ける。
この言葉にマティウスの表情が僅かに動く。口元が緩み、その闇夜の如き漆黒の瞳に不思議な輝きが浮かぶ。
「くくく・・・威勢の良い小僧だ・・良かろう相手に成ろう」
マティウスがそう答えた瞬間、バンは機先を制するように一足飛びで相手に切り掛かった。
(悪いなエルティア!お前の得意技ちと借りるぜ!!)
本来堅い守りとカウンターが持ち味のバンだったが、この男相手に待ちに回れば、何れは圧倒的な力に押し潰されると考え、ライバルであるエルティアさながらの速攻で切り掛かる。
だが、マティウスは右手に持った漆黒の大剣で、難なくその攻撃を受け止めた。
二振りの剣に宿った魔力と魔力がぶつかり合い、青白い火花が咲いて散る。
「ほうっ・・・若いくせに思ったよりも鍛錬を積んでいるな・・・」
真の達人であれば、剣を通じて相手の力量はおろか、性格や考え方。今まで歩んできた人生や、心の内側までなんとなく分かるものだ。
もちろん、バンも達人の端くれ、重なった剣を通じてマティウスの存在そのものに触れた。
だが、マティウスの心は余りにも暗く、そして大きく、例えるなら月すらも無い漆黒の闇夜に、何所までも続く坂道を上っている男が、その山の全貌を見極める事が出来ないように、マティウスの存在を理解する事が出来なかった。
「うっ・・・・をオオオオオオオ!!!!!!」
バンは溢れそうに成る敗北感を頭から捨て去り、だだ一心に剣を振る。
だが、マティウスは漆黒の大剣を片手で操り、バンの剣を全て受け止めてゆく。
恐るべき力量だった。並みの人間では持ち上げる事すら出来ないような大剣を、まるで棒切れのように扱っている。
余りの力の差にバンはふと五歳の時父親に初めて剣の稽古をつけられた時の思い出が頭に浮かんだ。
だが、バッカーズ流剣術の師範であり、パラム王国有数の使い手と唄われた父クラーズでさえも、この男の前ではドラゴンの前のゴブリンも同じだろう。
「どうした小僧?もう終わりか?動きが単調に成って来ているぞ?」
マティウスはまるで稽古でも付けるように、バンの剣にダメ出しをする。
「なめんじゃねえ!!」
バンは自分が知るありとあらゆるフェイントを混ぜ合わせながら、必殺の一撃を何度となく繰り出していく。
だが、マティウスはそれらの攻撃を、右手に持った漆黒の大剣でことごとく防いでいく。
(遊んでやがる!!)
この男の腕なら、先程バンが倒した教団の兵士同様一瞬で切り殺せるハズ・・・にも拘らずマティウスはバンの攻撃を防ぐだけで、積極的に攻撃しようとはしてこない。
まるでバンの剣を何所まで防げるか試しているかのようだ。
バンは攻撃の手を一瞬弛めると、足元の砂を蹴り上げた。
砂埃がマティウスの顔に当たり、視界を一瞬だけ閉ざす。
(ハハハハ!!見たか!俺様の勝ちだ!!)
「ハアアアアアアア!!!!!!」
バンは千載一遇の勝機に、歓喜の雄叫びを上げながら、マティウスの喉元を狙って渾身の一撃を放った。
目が見えなければ、如何に化け物のようなこの男であっても躱せるハズが無いと確信して・・・



だが、マティウスは咄嗟に背後に倒れ込む事で、バンの必殺の一撃を紙一重で躱す。
そのまま後ろに転がって起き上がった時には、マティウスの眼は既に開かれていた。
「ほう・・・てっきり、正統派のお遊戯剣術だと思ったが・・・やるじゃないか小僧」
マティウスはまるで弟子が思いもよらぬ剣の冴えを見せた時のように、何所か嬉しげにバンに声をかけてきた。
「お前で五人目だ・・・」
見ると紙一重で避けたせいか、マティウスの額に赤い線が一筋入っている。
どうやら、聖剣の切っ先がかすめたようだ。
(ちくしょう!あと少しだったのに・・・)
バンはあと一歩の所で大魚を逸した事に臍を噛む。
「だが、次は外さねえ!!」
確かに決着を付け損ねたが、額を切り裂いた事で流れ出した血が、マティウスの顔を赤く染めている。
あれならば、何れ血が目に入るだろう。
視界を奪われては如何にこの男が、バンから見てさえ化け物級の達人であっても、かならず必殺の一撃は届く。
その事は今の攻防で証明された。

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