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聖剣物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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聖剣物語 108

(な・・・なんだ?どういう事だ?・・・まさか・・・怯えているのか俺は?)
生まれた時から剣を振ってきたバンの剣士としての本能は、この男の力を正確に理解していた。
イヤ、むしろその力が量る事さえ出来ないと感じていた。
彼が今まで戦ってきた中で最強の剣士は、間違いなくバンが長年ライバル視してきた疾風のエルティアだったが、そのライバルを天秤の対に乗せてさえ、男の力が大き過ぎて量れない。
その事実にバンの本能は、武器を捨てて今すぐ逃げろと過去最大の警報を鳴らしている。
「聴こえなかったのかファルカーク?総主教様のご命令だ・・・スグに荷物を纏め神殿に帰還せよ・・・」
重ねられたマティウスのその言葉に、ファルカークはハッ!と正気に戻ると、バンを指差して叫ぶ。
「お!お待ちくださいマティウス様!お力をお貸し下さい!この男の名はバン・バッカーズ!邪剣の使い手であります!!」
「ホォ・・・」
この言葉を聴いて、マティウスはようやくバンに意識を向けると、興味深そうにジロジロと観察する。
「なるほど・・・それなりに鍛えているようだな・・・だが、何故邪剣を持っていない?」
「私が策を巡らせその者から邪剣を奪い取り、その者達を捕らえたのです!ですが、その者達は卑劣な策で逃げ出し、我が教団の兵士を何十人も殺しました!!マティウス様!どうぞ彼らの無念をお晴らし下さい!!」
この言葉を聴いたら殺された兵士たちはむしろ怒るだろう。
策も何もバカな挑発に乗って、彼らを逃がしたのは他ならぬファルカークなのだから。
だが、バンたちにとって愚かな男のこの言葉が致命傷に成るかも知れない。
「・・・良かろう・・・」
マティウスはそう言うと背中に背負っていた漆黒の大剣を抜き放った。
「ありがとうございます」
邪剣の使い手のバンたちの始末をマティウスが引き受けてくれてファルカークはほっと安堵する。
しかし、マティウスはバンたちを片付ける前に制裁を下すと言ったその瞬間!
「だが、その前に制裁を下さぬとな」
「ぎっぎにゃああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「敵の安易な挑発に乗り、忠勇な戦士をむざむざ死なせた貴様の罪は重い。この事は総主教様に報告しておくぞ」
「申し訳ありませんでした・・・」
ファルカークはマティウスによって鼻を切り落とされたマティウスはファルカークの失態の一部始終を見てたようである。

「さて…」
マティウスは改めてバンの方へ向き直って言った。
「邪剣の使い手バン・バッカーズ…以前より一度手合わせしてみたいと思っていた…ファルカーク、この男に愛剣を返してやれ…」
「はっ!?な…何故ですか!?」
「知れた事…こやつを斬った後で“邪剣を持っていなかったから勝てたのだ”などと言われても詰まらん…それに、邪剣を持たぬ邪剣の使い手など、斬っても面白くないではないか…」
そう言うとマティウスはほくそ笑むように目を細めた。
笑った訳ではない。
この男に関して言えば、笑顔という物はおよそ似合わないように思われた。
それは顔付きどうこうの話ではなく、相対しているだけで伝わって来る、この男の全身を覆う重く暗い雰囲気の為せる業であった。
それは何か相当な業(カルマ)を負っていなければ醸し出せる物ではないように思われた。
その圧倒的な気迫とでも言うべき物もバンを威圧している見えざる物の一部であった。
「我が名はマティウス・・・姓は捨てた・・・我が教団にて総主教様より、主教の地位を頂戴しておる・・・戦士の習いだ・・・名乗るがよい・・・」
マティウスはバンから十歩の所で立ち止まると、そう声をかけてきた。
バンはその男の圧倒されそうな程の迫力に押し潰されまいと、あえて普段よりも強い口調で叫ぶ。
「俺の名はバン・バッカーズ!聖剣ダモクレスに選ばれし偉大なる勇者だ!!」
マティウスはバンの言葉に満足気に目を細めると、地面に下ろしていた漆黒の大剣を持ち上げる。
ただそれだけの動作にも関わらず、バンは思わず片足を引いてしまう。
(この男は嵐か?)
バンはただ向かい合っているだけで、吹き飛ばされそうな程の圧迫感に、心の中でそう呟く。
「どうした?戦う前から怯えているのか?」
バンが後ずさる姿を見て、マティウスは何処か残念そうにそう呟く。
だが、声は小さくとも紛れもない侮蔑を含んだその言葉が、バンのエスパニア世界最高峰であるオリンビュア山より高い剣士としてのプライドに火を付けた。

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