錬金術師カノンと五聖麗 55
彼らの死体は異様であった。明らかに人の原型を留めてはいない。
幻獣や魔物・果ては精霊などを手や首のパーツ単位にして好きにつけあわせたような形態なのだ。
言うなれば錬金術によるキメラと魔造生物の融合体のような感じだ。
人をここまでの異形にできるものがマンドラゴラを狙っているとしたらカノンに取っては大きな脅威であろう。
「確かに…もし、その人の名前をシィナが調べてくれるなら助かりますね。」
「えっ?じゃあそれを調べればカノンさんは喜んでくれるんですか?」
「ああ、正体がわかれば対策がたつからな。」
考えるシィナ。
「私…やります。」
どうやら彼女のコンピューターはここでは駄々をこねるよりかカノンの好感度を上げた方が有効だと考えたようだ。
「そうか、ありがとう。しかし…ただ、ひとつだけ問題があるな。」
皆一様に首をかしげる。
「この人をどうするかだ。」
カノンの指の方向には深々と寝息をたてるスパイムがいた。
「確かに…スパイムには可哀想だけど学院であの暴走が起きたら困るわね…」
リクシュナとエリザ以外の面々は苦渋の声を漏らす。
「あの〜皆様ご心配なさらなくても大丈夫ですよ?」
口を開いたのは例外者の内の一人、エリザであった。続けてリクシュナが口を開く。
「主がこの状態になるのは心が荒ぶられた時。主が目覚めた時もっとも大事な人が側にいれば大丈夫です。」
「もっとも大事な人?」
「…王女様です。」
リクシュナは事も無げに言うが、隣にいるエリザ同様何処か自分では無いことに悲しみを感じているように見えた。
そして、それは二人だけに留まってはいなかった。
(なんで心がチクッとするんだろう…)
リアは二人を見ながらなんとなく悲しいようなその感覚を覚えるのであった。
「そうと決まれば話しは早い。それじゃあ俺はこれにて渓谷に向かう。」
場を纏めたのはカノンであった。
「え〜もう行くんですかぁ?」
「はぁ〜あ、これだからガキはダメなのよ。追ってに場所がばれてるんだからいつまでもここにいるわけにいかないでしょ?」
「シェリルはガキじゃないですぅ!!」
シェリルはアセリアの一言に敵意を剥き出す
「なによ?見るからにガキじゃない?」
「むぅぅぅ!!」
いがみ合うよう顔を突き出しお互いに警戒体制をとる二人。
「二人ともいい加減にしとけよ…俺はもう行くぞ。」
「てもぉ、ご主人様ぁ…さっきは明朝って言ったのに…」
「はぁ…シェリル、空を見てみ?もう、明るいぞ?」
こうしてカノン達の長い夜が終わった。
マルスから一日半程で行けるフェルマー渓谷にてカノン達は…
「はあぁぁ…さっきから魔獣の出現率、高過ぎねぇか?」
襲われていた。