錬金術師カノンと五聖麗 1
カノン・オルファリオ
この名を知らぬ者など誰も居ないだろう。
不治の病と言われたどんな奇病も忽ちに治し、異界の地から現れた人に仇なす凶悪な魔物を討ち倒し、あちこちに蔓延るならず者を蹴散らし、その他にも数々の武勇と偉業を成し遂げ、習得困難と言われた錬金術を操る錬金の英雄である。
勿論、彼には幾つもの通り名があった・・・代表的なのは『勇賢者』『賢聖の英知』『錬金の絶対者』『好色王』などたくさんあった。
そして、この物語は数々の偉業を成し遂げ、英雄と呼ばれるまでに至った経緯の物語である。
この物語で忘れていけないのが五聖麗の存在だ。
彼女達は常にカノンに付き従い、常に彼を護り彼に足りない部分を補い、彼と共に戦う美しき五人の戦乙女達の総称である。
しかし五聖麗は人間ではなく全て異種族なのだ。それも、滅多にお眼に掛かる事のない錚々たるメンバーである。
五聖麗のリーダー的存在で白竜の姫君…ウィルフィ
炎を纏い、美しき虹色の翼を持つ鳳凰…フォルトルージュ
大樹の大精霊ドリアードの眷属妖精…シェリル
聖剣を巧みに操るセイントエルフ…アセリア
強力な魔術を操るアセリアの双子の妹…レノマリア
聞いただけでも卒倒しそうな非常に豪華なメンバーだ。幻とまで言われた白竜と鳳凰が一緒に居て尚且つ同じ人物に仕えているのだから……
それでは始めよう、錬金術師カノンの波乱万丈に満ちた物語を………
ここは、西の大陸で最大の都市、レミンハルト。
この世界には、魔術なる奇跡が存在し、魔術というのが当たり前の世の中。
そして、大都市レミンハルト最大の魔術学校バレンシア魔術学院は、宮廷魔術師の卵を育てる登竜門である。
その魔術学院に通う少年、カノン・オルファリオは現在学院ではなく、西と北の狭間にある標高六千メートルを越えるカオスゼクス山の前に佇んでいた。
この山は、他の土地より魔獣や魔物が多く、足を踏み入れたら最後、無事に帰って来たものは少なく、そこから帰って来た者達さえも全員無傷ではなかった。ある意味魔界に一番近い場所であり、頭のイカレタ狂人でなければあれば誰も近付こうとは思わないだろう。
何故学生であるカノンがここにいるかというと、その話しは一週間前に遡る。
シュバルツ・スヴェイン教員に教員塔へ出頭命令を受けたカノン・オルファリオは萎えた表情で教員塔に赴いた矢先にシュバルツ教員に開口一番に非情宣告を告げられた。
「カノン・オルファリオ君、君にはカオスゼクス山に行って真実の花の根を取って来たまえ」
「はぁあ?」
教員に言う言葉ではないが、カノンがそう言うのも無理はない。何せ真実の花の根がある場所、カオスゼクスは凄腕の冒険者とかでも近付かない場所だ。そんな所に行けというのだからたまったものではない。