錬金術師カノンと五聖麗 54
「ふふっ、このままでも死ななそうだけどね…」
リアはスパイムの頬をつねった。
「!うぅん…ぐ〜…が〜」
「ふふっ、反応が動物みたい…」
「ははは…っと」
カノンはスパイムの傍らの大剣を持ち上げようとした。
「!!…重っ!」
カノンは一旦、剣を降ろす。重さは大体、60kg。腕力を錬金術によって強化しているカノンでも片手では持ち上げるのがやっとである。
「こんなのを片手で振り回してたのかよ、この人。バケモンだな…名が彫ってある…パラ…ル?…イノア?あぁ、パラライノアか。変な名前だな…」
「それは私が持ちましょう…人間には重すぎるのでね…」
そう言うとリクシュナはカノンの手から大剣を奪うと軽々と担いだ。
(やっぱ…あの人には吸血鬼の血が混じってんだろうな…力と速さ…マジで殺り合ったら…勝てっかな〜?)
物騒な事に考えを巡らすカノン。やはり彼も男と言うことか。
「カノンさん!私も一緒にフェルマー渓谷に行ってはいけませんか?」
「シィナ…君に怪我をして欲しくはないんだがな?」
「其処を何とかお願いします」
「ん〜……君、学業はいいのか?はっきり言って何時学院に帰ってくるのか分からんぞ?長くなると、規定日数の3ヶ月を越える可能性だってある。俺は追試だし、学院に尾思入れがあるわけでもない。逆に君は追試でない上に、無断外泊、無断欠席、俺と居るってだけで、君は大目玉を食らう事になるぞ。君は教員や他の生徒から受けがいいんだ。まぁ、こうグチグチ言っても仕様がないからきっぱり告げよう。君に来られるとはっきり言って邪魔だ!」
カノンはシィナに非情な宣言を下した。
確かに学院の成績は悪くないし、魔法に関しても優秀だ。しかし、これからはその常識が通用しない。
カノン自身は、こういった旅の経験もあるし、非常事態には慣れている。身を護る術だってちゃんとある。錬金術師としての切り札だって幾つかある。
しかしシィナには優秀ではあるが、これだ!という切り札がない。はっきり言って護りきれる自身もない。
シィナに何かあれば、その姉にクドクド言われそうだし、貴族であるが故に、ブチキレタ両親が色々と理不尽な罪を着せ、処刑され兼ねない。
故に、シィナには諦めて貰うしかなかった。
「邪魔だなんて…」
シィナは目に涙を浮かべる。
「わかってくれシィナ。君を危険な目に遭わせる訳にいかないんだ…」
暫しの、沈黙…今にも涙が溢れ出しそうなシィナの瞳とカノンの伏せがちな目が交差して止まない。
「ねぇ、カノン君。シィナをそんなに返したいならあなたが学園でしなきゃいけないことを頼んだら?」
重苦しい空気を破り、口を開いたのはスパイムの様子を見ていたリアであった。
「学園でしなきゃいけないこと?」
「そっ、例えば…コイツらを推薦した奴の名前とかね」