錬金術師カノンと五聖麗 44
「だいたいねぇ!あんたがお金を全然、持ってなかったからじゃないのよ!」
「いやいやっ!ちょっと待て!一銭も持ってない奴には言われたくないね!」
「しょうがないじゃない!カオスゼクスに行く時にお小遣い全部、使っちゃったんだから!」
「胸を張って言うなよ!高級宿なんかに泊まるからじゃん!」
「大貴族の私達にやっす〜い、ボロッボロなベットで寝ろって言うの!?」
「そのくらい、我慢しろよ!社会勉強だと思ってさ!」
二人は口論をしながらも馬に荷を取り付け、ゴータを出発するべく町の外れへと進んでいた。
それを端から見ていたシィナが疑問を口にした。
「ねぇ?リアちゃんとスパイムって本当は仲、すごく良いんじゃないの?」
「「良くないっ!!」」
「だって…」
「だいたいなんでこの私がこの男と仲良しになんなきゃならないのよ!平民だし!姫バカだし!シュバルツ先生のこと呼び捨てだし!」
「うるせぇ!こっちこそなんで自己中暴走女と!」
「なによ!」
「んだよっ!」
「ふんっ!」
「べぇ〜だっ!」
二人は睨み合うとリアはそっぽをむき、スパイムは赤子をあやす様に舌を出した。
(はぁ…リアちゃんがこんなに感情を表に出せる相手なんて他にいないと思うんだけどなぁ…)
シィナは思ったが口には出さなかった。
(いいでしょ!言ったら絶対、リアちゃん怒るもん!)
……あの、シィナさん?天の声とは会話しないで頂けます?
(だって、私…近頃、出番少ないし…)
「シィナ?何、一人でブツブツ言ってるの?」
「な、何でもないの!気にしないで!」
シィナ一行はゴータを出て、しばらく馬を走らせた。
そして、馬とケティを休ませるため街道沿いにて休憩中……
「おい、リア…」
「何よ。シィナが水汲みに行ってるからって変なことしないでよね!」
「するかっ!あのな…」
スパイムは声を潜める。
「もし、俺がなんかなったら…これを飲ましてくれないか?」
スパイムは懐からエリクシルではない緑色の小瓶を取り出し、シィナな渡す。
「?…自分で飲みなさいよ?」
「それができない時に飲ませてくれって言ってんのよ?お分かり?」
「ん〜…ま、いいけど…」
「悪ぃな…今夜は新月だから…」
「なによそれ?」
「…とにかく!頼んだぞ?どうしてもお前に頼んでおきたくてな…」
「…え?」
「…じ、実力的にってことだ!他意はないからな!」
そう言うとスパイムは用をたしてくると言ってそそくさとリアから離れていった。
「……なによ…もうっ!」
「どうしたの、リアちゃん?」
「な、何でもないわよ!」
リアは小瓶をしまうとシィナから赤くなった顔を背けて馬の背を撫でた。
「うぅ…」
ボロ雑巾の様になったカノン。シェリルはツンツンと指先でつついている。