錬金術師カノンと五聖麗 39
「あんのクソジジィ!知ってて許可証を渡しやがったな!」
「それって…私達を奪還班に加えようってこと?」
「そうだろうな…」
「い、嫌よ!私がなんでそんな危険なことをしなきゃならないのよ!」
「カルゴ…場所は分ってんのか?」
「ふむ…マルスじゃ。奪還班の奴等も転送で近くまで飛んだからのぉ…今日の夜には追いつくだろうな…」
「そうか…」
しばらく考えた後、言い争いをしているフォスナー姉妹に言った。
「俺も行かねぇ。今はな…」
「なんでよ!サボリ魔のくせにぃ!」
「ま、訳は後で話すよ…カルゴ。邪魔したな…今度、解読の続きをしようぜ?またな、ケティ…」
「こるる…」
ケティは撫でられ嬉しそうに喉を鳴らした。
場所を移し、男子寮スパイムの部屋。
「…訳って何よ。」
「焦んなよ…」
スパイムは茶器を三人分揃えると部屋の中央に置いてあった机に並べる。
「ほ〜ら、プリンセス・オブ・レミンハルト!王宮御用達の逸品よ!」
「変な所にこだわるわねぇ〜…あっ、おいしい…」
「だろ?だろ?姫様が生まれた記念の品だもんな!」
「姫様バカ…」
「って何、和んでんのよ!訳って何!」
「はぁ〜…つまりだ、まず相手は十中八九、精霊だ。何の眷属か、どんな位か分んねぇのに多人数で追っかけても最悪、全滅」
「だからっ!?」
「だからな、奪還班がもし全滅したとしても五、六年生。並の兵士よりかは強ぇ。ある程度、情報が入ってくる。追いかけんのはその後で良い。だろ?」
「う〜。だけど…」
「無事、奪還できたらそれで良い。無理して怪我することはねぇ…敵が大精霊だったら一国の軍隊でもかなわないしな…」
スパイムはまた一口、琥珀色の液体を口内に流しこんだ。
その時…
ドンッドンッ…
「たくっ…誰だっ!?」
「わ、儂じゃ…」
「カルゴか…開いてる。」
カルゴは勢いよくドアを開けると無遠慮に入ってくる。後ろにはケティもいる。
「んだよ?慌てて…あんたらしくないな。」
「追いついた奪還班の内、五年生二人が負傷したんじゃ。その代わり敵さんの情報も入ったぞ。ドリアードの眷属精霊。位はナルタミストじゃ…」
ナルタミストとは上級精霊である。精霊力は上の下であるが、姿を小人と亜人サイズに使い分けができ、精神構造も人のそれに近い。
「はぁ…ドリアードのナルタミストかよ。最悪だな…」
「そうじゃ。幻惑の樹海に逃げられたら終わりじゃしな。ファッファッ…」
「で…この状況で俺んとこ来たってことは、奪還班第二隊が必要で俺達に白羽の矢が立ったって訳か?ケティまで連れてきてるし…」
「あいも変わらず察しが良いのぉ。そのとおりじゃ。」
「しゃあねぇ…行くか?」
「うんっ!」
「わ、私は嫌よ!」
「分ってんよ。でもマルスまでどうやって行くんだよ?」