錬金術師カノンと五聖麗 38
「なるほど…お得意様って訳ね!」
ご機嫌なシィナが間接的にでもカノンの役に立てて嬉しいのか、微笑を浮かべ言う。
「そんなとこだ…俺はその報酬として希少な古文書を貰う。あのおっさんの人脈は侮れねぇからな…」
「そんなの何に使うのよ?食べるの?」
「食べるかっ!俺は山羊か!読むんだよ!」
「スパイム…字、読めたんだ…」
「おいおいシィナ君…俺を誰だと思ってる?王女特務騎士団副団長!スパイム・ケルファンたぁ俺の事よぉっ!」
一々ポーズを取るスパイム。
「あっ…着いた。」
「無視ですか…」
シィナがドアノブに手をかける瞬間…
ギイィィ…
古めかしい音を起て、内側から開いた。すると、室内から紅い大きな何かが飛び出してきた。
「キャッ!」
「うおぉ…」
それに体当りされたスパイムは床に倒れる。
「にゃおん…くるる〜」
それは小柄なシィナと同じくらいの紅い猫だった。
その猫はスパイムの顔を舐めあげる。
「お、お前…ケティか!ははっ…止めろ!くすぐったい!」
「こ、これは…リンクス?」
リンクス…紅い大きな山猫。人前には滅多に姿を現さない幻獣である。
「ファッファッファッ!御名答…リア・フォスナー君は優秀ですな…ケティはスパイムによく懐いておるのぉ…ファッファッ!」
中から初老の男性が声をかけてきた。腰は曲がっているが整える気がないのか、ボサボサの髪だけは多少、白髪が混じっているものの若さがうかがえる。
「カルゴ…先生……」
リアはあからさまに眉を潜める。
「スパイム…今日は女連れでこの前の続きというわけではあるまいて…フォスナー姉妹は真面目だが我々の趣向には合わんからのぉ…ファッファッファッ!」
ケティの首筋を撫でながらスパイムは言う。
「いやぁ、カルゴ…『イルマニストの唄』の続きは魅力的だがな…今日は別の用事だ。マンドラゴラって管理しているよな?」
ピクンッとカルゴの眉が跳ね上がる。
「マンドラゴラか…たしかにここに『あった』…」
「『あった』ってどういう事ですかっ!許可証だって…ほら!持ってきてるんですよっ?」
シィナが学院長から預かった許可証をカルゴに見せる。
「う〜む…三日前の晩に盗まれたんじゃ…」
「盗まれただと?マンドラゴラはここにあったんだろ?だったらケティの『感知』を潜り抜けたってのかよっ!?」
リンクスには高い感知能力を有している。これも人がリンクスを捕獲できない理由の一つだ。
「そういうことじゃな…つまりは…」
「精霊…か?」
「そうじゃな…精霊もしくは怨霊などの実体がない生命体であろうと考えておる。」
「追手は出したんですか?」
「うむ…五年生を五人、六年生を二人の奪還班を編成してな。学院長にも報告しておるはずなんじゃが…」