錬金術師カノンと五聖麗 35
「いやいや、礼を言うのはこっちの方だからな!俺はゴンゾ、よろしくな!がっはっはっ!」
バンバンとカノンの背中を叩いた。
「おう、エリザ!お前ぇも座ってな!疲れてんだろ?」
「義父さん!声、大きすぎるわよ、もうっ。カノンさん達、引いてるじゃない!」
「おぉ、そうか!こりゃ、すまねぇな!」
ゴンゾはそう言いながらも、声量を落とさず厨房へと消えていった。
「ほんとにすみません。うるさい義父で…」
「いや、退屈しなさそうだ。父親ってのも良いもんだな。」
「そう言ってもらえると恐縮です…」
「ねぇ、エリザ…」
水を飲み、一息吐いたアセリアが尋ねる。
「ゴンゾさんってハーフ?」
「ええ、そう聞いてます。エルフとミノタウロスの…」
「ミノタウロスだって?ドワーフだと思っていたんだが…」
「はぁ…詳しいことは話してくれないんですが…」
「私、不味い事を聞いちゃったかしら?」
「いいえ…義父を初めて見た人は皆、聞きますし…人はそれぞれ生まれてから今日まで、良い事でも悪い事でも積み重ねてきたモノ全てがその人自身だ…ってこれはスパイムさんからの受け売りなんですけどね…」
「へ〜、あの人がそんなこと言ってたんだぁ…」
スパイムは彼女の人生によっぽど影響を与えているのだろう。
しかし、二人は疑いの視線を向けながら答える。
ただの空気の読めない男だと思っていた二人にはいくら生真面目そうなエリザの情報でも、信じがたいのだ。
「あっ!信じてませんね?ああ見えて、スパイムさんは結構哲学家なんですよ!?」
エリザは頬を膨らまし不満を漏らす
「へぇ〜、あの人がねぇ…」
「もう!反応一緒じゃないですか!!あんまり、ずっとそんな態度だとおごるの辞めにしますよ!」
叫ぶエリザは歳相応の少女に見えた。
時を少々逆上り、話題のスパイム一行は…
「…はぁ〜。この転送って魔法はもうちょっと身体に優しくできないものかね…」
学院正門前で転送により乗り物酔いにも似た感覚から立ち直ったスパイムは言った。
「なら馬車に揺られれば?」
「別にリアに文句を言ってるわけじゃねぇよ…」
「それなら良いんだけどね。それにしてもシィナ…いい加減、機嫌を直しなさいよ…」
膨れっ面のシィナにリアは言う。
「だってカノンさん達は勝手に行っちゃうし、リアちゃんは起こしてくれなかったし…」
「もうっ、この娘ったら…一旦、臍を曲げるとなかなか戻らないのよねぇ…」
「ほう?どっかの神様と一緒だな。岩屋戸はなかなか開かない♪ってか?」
「なにそれ?」
「遥か東方の神話だ。昔、文献で読んだんだよ。」
「授業にも出ないであなたはそんなのばっかり読んでるから落第ぎりぎりなのよ…」
「うるせぇ。余計なお世話だ。」
「はぁ…じゃあ、マンドラゴラの件は学院長にお願いしましょ…」
「げっ…マジかよ。」
スパイムは眉を潜め、顔をしかめる。