錬金術師カノンと五聖麗 33
「そうですか。その気持ちには感謝します。お礼と言ってはなんですが、私は今からマルスに行くのですが、食事でもご馳走させてください。」
「いや、俺達は何にもしてないし、歯痒いな…」
「いいじゃない、もたらされる物には感謝をこめて頂くのがエルフの流儀よ。」
こうしてカノン、アセリアに加えエリザが旅の仲間になった。
「私はですね、詳しくは言えないんですがレミンハルジオン王国に仕えているんですよ。今回は潜入任務でしてね。普通のエルフに変装したいたんです」
しばらく歩いて分ったがこのエリザという少女は人懐こい。自分の事をぺらぺらとはなし続ける。
なお、レミンハルジオンとはレミンハルトを王都とする大国である。
「でもなんでダークエルフのあなたが人に仕えるの?」
「それはですね、私の部族がニンゲンに滅ぼされてしまいまして…復讐するためです。どこの誰かも分らないのにおかしいでしょ?笑って下さい…」
「いやいや、笑えねぇよ。重たすぎるだろ?」
「でも…私も部族が滅ぼされたら同じ事をするかもしれないわ。エルフの部族っていうのわね、カノン…人でいう『家族』みたいなものなの…」
「なるほど…たしかに親兄弟を殺されたら復讐するな、俺も…」
「カノンさんはご家族は?」
「ああ、おれが生まれてすぐ母が死んで、親父は戦死だ。兄弟もいねぇし、天涯孤独の身だ。」
「それは…すみません、出過ぎた事を」
「君も話してくれただろう?それに俺は引き取りてがあったしな。あんまり寂しくなんかなかったさ…」
「けど…私はこの国の貴族ってあまり好きになれません。私利私欲のためにいつも戦を起こして。あ、皆が皆ってわけじゃありませんよ?王女様とかフォスナー公。良い人達です。これは大きな声で言えですけど今、私は姫様直属でして…」
「姫様直属?…どこかで聞いたことあるわね、カノン?」
「あぁ〜、えと…あっ!スパイムさんだ!あの人も昨晩、姫様直属の騎士って…」
「えぇっ!?スパイムさんとお知り合いなんですか?」
「ああ、魔術学院の先輩だ。」
「そうなんですか。私、あの人、好きです。気さくで優しくて…」
「優しいぃ?あの人がか?優しいつーか野蛮だろ?この場合…」
カノンが顔を歪ませ、言う。
「ふふっ…いいえ、あの人は優しいですよ。辛い事なんてみんな、笑い飛ばしてくれます。」
「……まぁ、人の印象なんてそれぞれだしな。」
他愛のない話しをして、歩いて行くと…
「あっ!見えました!あそこです!」
指差す方向には階段状に山肌に造られた街が見えた。