錬金術師カノンと五聖麗 12
「ガアアッ!!」
しかしベリガルの顎から迸った禍々しい真紅の閃光は三つの壁をまるで砂上のように簡単に薙ぎ払った。
砕け散る炎や土の欠片を浴びながら壁をカーテン代わりに、こちら側の動きを悟らせず、俺たち二人は側にあった岩壁に潜り込むことに成功する。
「二枚だったら余波でお陀仏だったな」
冷汗を掻きながらも楽しげな口調のカノンに美女の眉が潜まる。
「・・・貴方」
「ちょっと黙れ。今作戦を考えてる」
今先の破壊力と圧倒的な魔力から遠距離からの砲撃ではまず、こちらが不利。やるとなれば接近戦だがあの巨躯と豪腕からして一撃まともに食らえば即死するだろう。やるならば相手の不意をついて一撃必殺で殺すしかない。
「さて、どうするかな」
心底、心臓の鼓動が聞こえるぐらいに恐怖しているのに口元の笑みは取れない。学園での生活では感じれなかった【生への実感】がそこにあった。
辺りの荒野に他の隠れる場所はない。
ベリガルの方も視線を辺りに回しながら熊の鼻を鳴らしている。嗅覚も熊並だったら見つかるのも時間の問題だろう。
「ど、どうするの?」
美女が怯えながら尋ねてきて俺は視線をベリガルから放さず、ふと気付いたように質問した。
「そういや名前を知らないな。俺の名前はカノン。あんたは?」
「え?」
「だから名前」
「アセリア、アセリア・クレセントよ」
「そうか、つかその耳・・・お前エルフか?」
「そうよ。私はエルフよ。気高きエルフの頂点セイントエルフよ!」
「ふーーーーん」
「反応薄っ!!」
「バカたれ、大声出すな!気付かれただろ!!」
ベリガルはカノン達をギロリと睨んでいる。
「んな、戦ってられるか!!逃げるぞ!」
「ちょっと、逃げるって何処へ!?」
「知らん!兎に角走れ!死にたくなけりゃあな」
そして、カノンとアセリアは猛ダッシュで山を下っていく。カノンは逃げているときもちゃっかり錬金術で障害物を創りながら下りていく。
「だぁあ!走りながら創るの面倒臭ぇ!おい、アセリア!お前は転移魔法使えるか?」
「はぁ、はぁ、一応使えるけど、私ちょっと魔法のコントロールが下手で、上手く座標が指定出来ないのよ」
「マジかよ!お前はエルフじゃねぇのか?」
「私は、魔法より聖剣を使った近接戦闘の方が得意なのよ」