海で・・ 98
秀人はたわ意も無い話しを面白可笑しく続けてくれた。
身重のアヤさんを抱く訳にもいかず、シカゴに行ってからは女を抱いていないこと・・
かといって、持て余す精欲を抑えることはできず、毎夜のように1人Hで我慢していること・・
挙げ句の果ては、その卑猥なスタイルまでをも披露してくれ、それはまるで、数カ月前の自慰しか知らなかったあの頃を思い出された。
「懐かしいな・・」
僕は呟いた。
「ああ?何?」
「あの海でのことさ・・」
「海で?」
「ああ、僕は童貞だった・・」
「ああ・・あの海か・・」
「あの時、お前についていかなかったら、ミキさんやアヤさんと知り合うことも出来なかった」
『まあな。でも、それでお前に複雑な思いをさせちまったけどな』
「そんなことはないよ。真帆のことは、それがなくても薄々気になってたし」
『そういえば、真帆やミキさんも変わらず元気か?』
「ああ」
僕は、秀人が知らないであろうことを教えてみる。
「ミキさんは来年の春から高校の先生になるんだ。真帆と僕は、その高校に合格できるよう、今頑張って勉強してる」
『うぇ、マジで?』
「ああ、必死に勉強してんだ」
『お前なら大丈夫だ。俺がついてる。』
「あ?秀人が着いていても糞の役にも立たねーよ!」
『おい!糞はねーだろ!?ケツぐらい拭いてやるよ!』
「秀人と違ってケツはバージンだから、前の方、オネガイシマ〜ス!」
2人は笑った。
僕は久しぶりに笑い過ぎて涙が出た。
そしてそれは、僕の中での秀人という存在のデカサを改めて感じることとなった。
「ありがとう、秀人」
『お互い頑張ろうな』
「ああ」
そう言ったところで電話は切れた。
遠く海の向こう、アメリカで修業している秀人。
それに比べたら、自分の苦労なんて…
「よし」
僕は再び、机に向かって勉強を始めた。
入試当日まであと何日も無かった。
それでもここ数カ月で周りの皆が驚く程に一馬の学力は上がっていた。
ミキさんとて、『敵わぬハードルでは無い』とまで言ってくれたのだ。
今は余計なことは考えずに受験に打ち込もう!
一馬は昨晩投げ入れたゴミ箱に山となるティシュを横目に、参考書と格闘した。