海で・・ 963
「ああ…アイツは強そうに見えて、本当は誰よりも弱いところがあるからな…」
「そうね…人一倍気を使って、我慢してるし…」
「我慢?…」
「分かってるでしょ?…茜の気持ち…」
「あっ…うん…」
「それだって真帆に気を使って…一馬には言えないでいるんだよ…」
初音から痛い一言。
僕だって茜の気持ちは十分わかっている。
あの時抱きつかれたのは、そういう気持ちなんだと。
…でも茜は、僕のため、そして親友の真帆のために、自分の気持ちをグッと堪え続けているんだ。
「…まあそれは私もなんだけど」
「ごめん、初音にも茜にも辛い思いをさせてるんだね」
「一馬の所為じゃないよ。気持ちは言えなくても、一馬がそれをわかってくれてるから、嬉しい」
「……初音…」
「ごめんこんなこと言って…、余計一馬を困らせちゃうよね…」
「そんなこと無いよ…だけど二人の気持ちには答えられないっていうか……」
「分かってるよそんなこと初めっから…だからたまにこうやって話せるだけで私は…」
そう言って初音は、僕の腕をギュッと握り締めてきた…
腕に密着する柔らかな胸の感触。
こんなときに股間が反応しそうで情け無い。
そういえば初音は真帆より前から僕のことを…そう考えると申し訳ない気持ちがある。
「なぁ初音」
「うん?」
「今日、帰り時間ある?」
「……一馬が誘ってくれるなら、私はいつでも一緒するよ」
初音と二人で話すのも久しぶりだもんね…
気持ちには応えられないけど、せめて二人でいる時間を取ってあげたいからな…
「それじゃあ授業が終わったら、駅前のファミレスで待ってるよ…」
昨日の茜の時みたいに、行く宛ても無いのは困るからね。