海で・・ 947
そりゃあ好みじゃ無い男にいい寄られちゃ、そう簡単には割り切れないだろう…
「まあ茜には茜の考えがあってのことだと思うぜ…」
「それはそうなんだろうとは思うけど…やっぱアイツも女の子なんだぁなぁーって思うよ。」
「どういう意味だよそれ?…」
「俺だったらよ、そんなチャンスがぶら下がっていようもんなら、相手がおばちゃんだろうがオヤジだろうが、進んで付合うと思うぜ…」
…そこはさすがに相手を選ぼうよ、涼。
確かに金や名誉に心が揺らいで流されることはあるかもしれない…しかし、それでも自分と合わない人間についていくのはどうかと思う。
今の茜はきっとそんな間にいるんだろう。
午後の授業が終わる。
演劇部は今日も自主練習日のようだ。
下駄箱の前で待っていると、肩を落とした茜がやって来た。
「どうしたぁ?…元気無いじゃん…」
やっぱり瀬名衛って奴のことを気にしてんだな…
「一馬にちょっとお願いがあるんだけど…」
「ん?…何ぃ?…」
「それがさ、西高演劇部の部長の家に誘われているんだけど…付き合って貰えないかな?」
うぇ?!…瀬名の家にですかぁ…
もしかして、朝茜があいつと話していたのは、それだったのかな?
それで断ろうにも断りきれなかったのだろうか…今日の茜が元気なかったのは…
「…いいけど、僕みたいな部外者が一緒にいていいのかな」
「一馬は部外者じゃないよ。私がいいって言ってるんだから…それに、一人じゃ…」
もし茜が一人で瀬名の家に行ったとする…
茜の身に何かがあったら…
それを考えると行かない訳にはいかないな…
「それなら一緒に行かせてもらうよ。僕が側にいるから、茜は自分の言いたいことちゃんと言うんだよ。」
「一馬…ごめん、変なお願いしちゃって…」
茜はそう言うと、僕の肘元を摘んで申し訳なさそうに俯いた…
「何ぃそんなこと気にすんなって!僕にとって茜は無二の親友なんだからさぁ!」