海で・・ 941
迷い箸の僕の横で、僕のかじった焼きそばパンを口にする瑠璃子さん…
これって間接キスだよね;…
油でテカる瑠璃子さんの唇を見ながら、僕はなんだか照れてしまう…
「ん?…どうかした?」
「あっ;いえ…」
僕は慌てて卵焼きを口の中にほうり込んだ…
甘すぎず、それでいて塩辛くもない、絶妙な味。
母さんやあかりさんの作る卵焼きとも大差ない…美味しい。
「美味しいですね」
「ふふっ、ありがと」
「瑠璃子さんが自分で作ってるんですか?」
「そうだよ。一番の自信作なんだ」
「瑠璃子さんって、お母さんは…」
「いるけど、仕事が忙しくて。私が家事も半分やってるような感じ」
理想的な女性だぁな。
やっぱり瑠璃子さんは、こういうところも僕を裏切らないよね。
「鈴木くんは料理しないの?…」
「あっ、はい…」
男であろうと料理ぐらい作れなくちゃ、最近は女の子にモテないなんて話しを聞くけどね;…
「まあ、男の子だからしょうがないか」
「でも、少しはできないといけませんよね…」
「ふふ、今はお母さんに頼ってもいいんじゃない?」
「ええ…でも僕の場合は」
そこで思い出す。
瑠璃子さんは、お母さんが再婚して新しい『父親』がやってきた、そんなことを聞いたのを。
父と母の違いはあれど、境遇は似ているんだったな。
「あっ、ごめんなさい…鈴木くんも…」
瑠璃子さんは慌てて僕に謝る…
まあ仕方ないよね…
僕だって今の今まで忘れていたことだもんね…
「そんなこと気にしないでください…、ところでその後どうです?…新しいお父さんとは…」