海で・・ 926
彰人の空気の読めない、容赦のない質問をかわしながら、午後の授業をこなしていく。
いつもなら眠気との戦いになる時間だが、不思議と今日は目が冴えているような気がした。
…あっという間に放課後。
特に部活も用事もない僕は帰り支度を済ませる。
「一馬くん…」
「真帆、今日は部活?」
「ううん…今日は自主練なんだぁ」
「それじゃあ調度いいやぁ、久しぶりに一緒に帰ろうよぉ」
「うん!」
その言葉を待っていたみたいに真帆の顔がパァと明るくなる。
「よかったら家に来ない?…名古屋旅行の話しもゆっくり聞きたいしぃ…」
僕の家よりは真帆の家のほうがいいかもしれない。
「いいけど、お母さんは?」
「大丈夫!」
…ホントは、紀美子さんにも会いたいけど…するなら2人きりのほうがいい。
支度が済んだところで、真帆と一緒に帰宅する。
「この週末は部活だったんだろ?」
「うん…私だけ参加しないのは気が引けたしね…」
「それは残念だったな…真帆が来たらまた違って、楽しかっただろうにな…」
「シンクロの人たちと一緒だったんでしょ?…」
「ああ、ミキさんが顧問でもあるからね。ミキさんからは何も聞いていない?…」
「うん…お姉ちゃんとは住む場所も違うもの…」
寂しそうな笑顔を見せる真帆。
まだ紀美子さんに真実を打ち明けていないのだから、一緒に暮らすのも無理なのは仕方ない。
「学校で話したりしない?」
「うーん…したい気持ちはあるんだけど、なかなか」
担任(代理)であってもプライベートのことはなかなか切り出せないよね。
理解してくれる人はいてもそれもまだ全体では圧倒的に少ないし。
真帆は並んで歩きながら、僕の手を握ってくる。