海で・・ 908
「一馬くんの…?」
あかりさんはハッとしたような顔で、僕を見つめた。
「うん…僕も、一度だけ、その、事故みたいな形であかりさんとしちゃったじゃないか…」
「ああ…まだ気にしていたんだ」
あかりさんは涙を拭いながら笑顔を見せた。
「一馬くんの可能性はないよ…きっと」
「そ、そうかぁ…;」
父さんや藤堂先生には悪いけど、“よかった…”と安心してしまう…
でもヤってしまった以上、その可能性もあったのだと痛感する。
僕は藤堂先生を非難なんて出来ないよな…
だって運が悪かったら、このお腹の子は僕の子供だったかもしれないんだから…
「一馬くんとしたのも、私のいい思い出だよ」
「いや、あかりさん、そんな…」
「できれば事故なんかじゃない、雰囲気の良い感じでしたいな。私が大丈夫な日にね」
「あかりさん…」
あんなことがあったにもかかわらず、こうのたまうことができる、あかりさんの強さを感じてしまう。
何事に対してもポジティブなあかりさん…メガティブ思考の僕には見習うところは沢山あるけど…
だからといって父さんの手前、そんなことはもう出来ないよ;
実の息子が義理の母親になるあかりさんとそんなことをスルって、他人の藤堂先生とヤルのとは、やっぱり訳が違うもんね…
それにもし今度そんなことをしたら、『事故』では済まされないだろうから、それなりの覚悟が必要になるしな……
そんな重たいセックス…ちょっと考えちゃうよ;…
「…まずはあかりさん、無事にお腹の子を産むことが先ですよ」
「ふふ、一馬くんはマジメね」
たしなめるように話をはぐらかしてもあかりさんは変わらない。
それがいいところでもあるけれど。
「そうそう、この子ね、女の子だって」
「ホントですか」