海で・・ 907
やっぱりそうなのか?…
そのお腹の子は…藤堂先生の…?
「藤堂先生からいろいろ聞いちゃったんだ……あの…その…あかりさんとのことも…」
僕は口篭りながらもそう言うと、菓子箱の饅頭を口いっぱいに頬ばった…
「ふふっ、隠さなくていいよ。いずれは一馬くんにもわかってしまうことだと思ってた」
あかりさんは微笑みを崩さない。
「まだはっきりとはわからない。でも、その可能性は高いって」
口の中の饅頭をお茶で流し込む。
「そんなことより、私が怖かったのは、秘密がばれて、一馬くんに避けられるのが…私…」
「さ、避けはしないけど…このこと父さんは?…」
それゃあそうだ…どっかの芸能人でもあるまいし、父さんに自分の子供と信じさせて生活していく気なのか?…
「お父さんには話したは…藤堂先生と関係を持ってすぐに話したの…」
「関係を持ってすぐに?…」
「そう…子供が出来たって分かる前よ…もちろん出来たって分かってからも、貴方の子じゃないかもしれない…って伝えたは…」
「父さんは、それになんて答えたの?」
「別に構わないよって…もし俺の子じゃなくても…堕ろすことは絶対にしないでくれよ、って…その言葉に、思わず私、泣いちゃったよ」
父さんらしいといえばらしいのかな。
「お父さんも、一馬くんも、みんな優しくて、私、ホントに…」
泣きじゃくるあかりさんを、そっと抱きしめる。
「あのさ……」
喉まで出掛かった言葉をなかなか口に出すことが出来ない…
それでもここで聞かない訳にはいかない…
今を逃すと、一生聞くことなんて出来ないだろうから…
僕は傾く目を閉じ、意を決して口を開く…
「もしかしてその子って………僕の子供って可能性は?…」