海で・・ 865
「こちらですね」
ある部屋の前でその人が立ち止まった。
何のプレートも立てかけていないけれど、藤堂先生の部屋だったりするのだろう。
コンコン
彼女がドアをノックする。
「はい?」
「康介さん、お客様がみえましたよ」
「あ、ありがとう…由紀さん…」
…なんか頼りないような返事だったけど、藤堂先生ってあんな喋り方だっけ?
園田さんや成美と目を合わせてしまう。
まさか病気?…
学校では散々女の先生たちにヤラれちゃっていたから、精神的に病んでしまったことも充分に考えられる;…
「お坊ちゃまは、暫く誰とも会うことを避けておいででしたから、今日は本当によかったですは…」
由紀さんと呼ばれた女性は、囁くような声でそう言いながら、ゆっくりとドアを開いてくれた…
ドアの先…あの頃とは変わらない印象の藤堂先生がいた。
変にやつれていたりしたら心配が増すところだったが、そういうところはなさそうなのでホッとする。
「ああ…君たちか…」
「お久しぶりです」
ミキさんはしっかり大人の対応で、挨拶する。
「恥ずかしいところを見られてしまったな…」
藤堂先生は気丈に笑って見せるが、それもどこか力なく見えた。
「どうしたんです?先生…具合が…悪いんですか?…」
園田さんが心配気に聞く…
「おお園田さん…君も来てくれたのか…」
やっぱり藤堂先生の声には張りが無い…
学校での時は、耳を塞ぎたくなるぐらいにいつもデカイ声を出していたというのに…
見た目は普通なのだが、声に力も張りもない。
…ああいうことがあると、精神的にキツいんだろうか。
「あの、藤堂先生…」
「みんな来てくれてありがとう…それとこんな感じでごめんよ」
ミキさんですら何と言えばいいのか困っていた。