海で・・ 857
「一馬って意外と心配性だね。でも普通はそう思うよね」
成美はミキさんから離れて僕の方を向く。
「思い出してみてよ。私たちが男子の水泳部の奴らにヤられたときのこと」
「えっ?」
「あの時だって、あいつらは厳しい処分を受けてる…それからは何もないよ。強権発動って言われたらそれまでだけど…」
確かにあれ以来事件らしい事件はない…まあいいことなんだけど;
でも陰では徹が受けているみたいに、陰湿な苛めが横行しているんだろう…
「このことも含めて、藤堂先生に相談してみましょうね…」
うんそうだ…藤堂先生だったらきっと徹の力にもなってくれるに違いない…
「藤堂……?」
…しまった、成美は藤堂先生に不信感を抱いているんだった。
「休職中の藤堂先生を呼び戻せないかと考えてるの。それで週末、私たちが…」
「そ、そうですか…」
成美の表情が曇っていくのがわかる。
「先輩の気持ちもわかります…でも、藤堂先生には…」
「美月ちゃん…」
話の輪の中に、いつの間にか園田さんが加わっていた。
「何やかんやあっても、藤堂先生はこの学校に必要な人だと思うんです…」
真剣な眼差しで成美を見詰める園田さん…
確かに徹のことにしたって、ここに藤堂先生がいてくれたら頼りになると僕も思う…
「美月ちゃんの言うことも分かるけど…、私は納得いかないよ…」
誰からも視線を逸らせ、成美は遠くを見るような感じになる。
「アイツが瑠璃にしたこと…私は絶対に、許せないんだ…」
…藤堂先生は瑠璃子さんと深い関係にあった。
その経緯はどうなったのかは知らないが、成美は藤堂先生が瑠璃子さんを汚したのか、それとも捨てたのか…そう思っているのだろう。
「成美ちゃんは、真実を知らないんでしょ?」
「ま、まあ…」
「なら、週末に一緒に行かない?今なら、全部判ると思う」
ミキさんは頼もしくキッパリと言う。