海で・・ 853
「あの人はグイグイ引っ張ってくれるだろう…頼りになるよ」
「ちょっと困るくらいだけどな」
「成美の彼氏はおっかないぞ」
「マジかよ…」
僕はかわいがってもらえたけど、同じ運動部だとわからないよな。
成美はニコニコとしながら僕らを眺めている。
隣には千葉先輩がいる。
「ほんと綺麗な人ばかりだよなぁ〜…」
小野寺徹は鼻の下を伸ばす…
「ああ、見た目で入部を制限しているのかと思っちゃうほど、シンクロ部には美人が多いよな…」
僕も小野寺徹に同調する。
「鈴木は部活とかやんないのか?…」
「うーん…今は特に考えてないんだよな」
これが今の本心である。
皆からは勧められたり見学もしてはいるものの、どうもピンと来ない。
「別に強制するわけじゃないけどさ」
「そうか…」
特待生の徹には考えられないことかもしれないよなぁ。
「お前こそいいのか?練習に参加しなくて」
「鈴木まで俺に、バレーバレーって言うんだな…」
小野寺徹は声を落とし、ボソッと呟くように言った。
「えっ?…そんなつもりで聞いた訳じゃ…」
「あっ…ゴメン;。そうだよな、なんか…つい…な;」
自分の言葉に後悔したように…鼻の頭をポリッと掻く。
「お前…何かあったのか?…」
徹は浮かない顔をしていた。
「周りの目が厳しいんだ…練習もキツいし、先輩も…いつか耐えられなくなるのは目に見えてた…」
トーンの低い声がさらに低くなった気がした。
特待生だからって良いことばかりではない。
徹はプレッシャーに押し潰されそうだったのか…