海で・・ 814
「はい、その為にはやっぱり、男子から絶大なる信用のある藤堂先生が必要なんですよ!…」
僕は拳を握りしめ、歩美さんに掲げて見せた。
「そうね…藤堂先生は水泳部だけじゃなく、学校中の男子のアニキ的存在だったものね。」
確かに僕にもよく声を掛けてくれて、頼りになる兄貴風だったよな…
「一馬くんは藤堂先生を慕ってるのね」
歩美さんは微笑みを絶やすことなく言う。
「ええ、僕にとっては兄みたいなものですから…」
…それは言い過ぎではないだろう。
「そしたら、今日みたいなことも出来ないよね」
「わかってますよ…」
藤堂先生が戻ってきてくれるなら、もうサボる訳にはいかないからな…
なんたって藤堂先生はそういうことが大嫌いだから、それに応えないといけないもんね;
「それじゃあ…ここにも、もう来てくれなくなるのかしら?…」
「あっ…いえ、それは大丈夫じゃないかな…」
こういった意味においては男同士…
話しの分かるところが、藤堂先生が皆から兄貴と慕われる由縁なんだよね。
「藤堂先生と歩美さんでは、相談できることは違ってきますから」
「ふふっ、そうなの?」
歩美さんはニコニコした表情を崩さない。
…ああもう、それが可愛すぎる。
「一馬くん、男らしくなったよね」
「えっ?」
唯さんにも同じようなことを言われたけど、自分ではどうも分からない…
確かに多少は黒くはなったけど、秀人と比べるとまだまだ淡い色だしな;…
「身体の方も逞しくなったんじゃない?…」
「い、いえ…別に運動部に入っている訳じゃないし、筋トレなんてしていませんし;…」
男として藤堂先生みたいな逞しい身体に憧れるけど、その為に何か努力することなんてなかなか出来るもんじゃないよね;…