海で・・ 807
「大丈夫です、唯さんならきっと、向こうでも…」
「ありがと、一馬くんはホント、誰にでも優しいから」
こんなに優しい奥さんがいるなんて、旦那さんはそれで幸せだと思う。
もちろんそれは秀人にも言えることだけど…唯さんにも、いずれ子供ができて、幸せな家庭を築いてほしい。
心からそう願う。
「はい、できたよ」
唯さんが朝食の乗ったお皿を、僕の前に差し出す。
それは確かに初心者そのものの見た目だったけど、味はすこぶる美味しかった。
「旨いですよぉ唯さん!これなら旦那さんも絶対に喜びますってぇ!」
見た目より中身が大切…それは人付合いにも言えることだもんね。
「よかったぁ〜!一馬くんにそう言ってもらえるとヤル気もますます出てくるはぁ」
唯さんは歓喜の表情を浮かべ、僕の頬にチュッとキスをしてきた。
そうやってちょっと調子に乗って僕に抱きついたりするところが、年上の女性らしからぬ可愛さがあって、余計に好きになってしまう。
「もっと頑張らなくちゃ…1年後には一馬くんがうんと唸るくらい美味しいの作って見せるよ!」
「拘りますねぇ」
「一馬くんは、旦那とはまた違う大切な男の子だもん」
「はは…」
唯さんは、いつまでたっても僕の憧れの人であり、可愛い女性だと感じた。
朝食を平らげると早々に小島家を後にする。
唯さんはアヤさんに家まで送ってもらえばと言ってくれたけど、桜ちゃんがいるのにそれはちょっと申し訳ない。
まあそれよりも皆に顔を合わす前に退散したいのが本心ではあったんだけど;
お礼は改めてまた来よう…
その時はミキさんも一緒がいいよね。
何事もなく、家に帰ってきた。
ドアは鍵がかかっており、父さんはもちろんあかりさんもいないことがわかる。
カバンの中から持ち歩いているキーホルダを取り出し、鍵を開けた。
リビングにはあかりさんのものらしき書置きがある。
『一馬くんへ 午前中は病院にいくので家を空けます
もし帰ってきたらご飯は適当に済ませておいてね………… いつもごめんね あかりより』