海で・・ 806
流石に6時過ぎではまだ早かったのか、リビングには誰もいなかった。
まあ夕べの声は皆にも聞こえていただろうから、いないでいてくれた方がありがたいけど;
ここで皆が揃っていたら、どんな顔をしたらいいか分からないもんな…
「あら、まだ寝ていてくれて構わなかったのに…」
エプロン姿の唯さんが、キッチンから顔を出した。
「いや…もう目が覚めちゃいましたし」
ここで二度寝したらいつ起きるかわからないしね…
「そうだね、一馬くんらしいや」
唯さんは軽く、可愛らしく微笑む。
「皆さん遅いんですか?」
「みんなマイペース過ぎるのよ、母さんも多分、当分起きてこないだろうし」
「お父さんは結局帰っては来なかったんですか?…」
「ええ、海外と仕事しているでしょ、時差の関係で夜中働くことが多いのね…」
流石世界各国にホテルを手掛ける社長さんだよな…
「それじゃあ寝ないで?…」
「まさかロボットじゃないんだから…ちゃんと会社内にベッドルームはあるのよ。」
「そ、そうですよね…」
普通考えたらそうに決まっている。
いくらやり手の社長だからって寝ずに仕事なんてできないだろう。
「唯さんはいつも朝早いんですか?」
「そうね…結婚したのにここに入り浸っているもの、これくらいしなくちゃね」
大金持ちのお嬢様でありながらそれに甘んじることのない、こういうところが唯さんの素敵なところだよな。
「なんてカッコいいこと言ってても、実はこれからの旦那との2人の生活の為に、今さらながらに料理の勉強してるのよ…」
「それって今までは?」
「旦那が日本に帰って来てもほとんどこの家に連れて来てでの食事…、やっぱり海外ではそういう訳にもいかないもの‥」
そりゃあそうですよね…。毎日外食っていうのもなんだか寂しい気がしますしね…