海で・・ 750
遥ちゃんは何も言わず、僕の右腕をキュッと絡めて、潤んだ瞳で僕を見つめてくる。
…この歳にしてこの表情、罪過ぎますよ。
「どうしたんだよ、泣いたら可愛い顔が台無しだよ」
「そんなことないもん…」
それでも強がっているのは明らかだった。
「アヤさんに何か言われたとか?…」
僕の顔を見詰め、左右に頭を振る遥ちゃん…
「それじゃあお母さんを気にして…?」
「そんなんじゃないもん…」
まあ薫さんだったら、こういうことには寛大そうだもんな;…
これ以上は何も浮かばない。
今日知り合ったばかりなのに心をひとつに通わせろとはハードルが高すぎる。
「一馬くん」
困った僕に助け舟を出したのは優ちゃんだった。
「どうせなら、遥と2人きりになるといいよ」
「えっ…」
これって助け舟どころか、僕にとっては泥船だよ;…
「そんなことしたら…一馬さん益々困っちゃいますよ…」
えっ?…それって遥ちゃん?…
「まあ遥ったら、一馬くんが困っているのが分かって、自分から身を引いていたのね?…」
うぇ?!…そうだったの?…
アヤさんがそう言ったのに反応して、遥ちゃんの表情をうかがうと、薄く微笑みながら小さく頷いた。
…いい子過ぎる。
こんなに可愛くて、健気な子なら、きっとすぐに彼氏が出来るはずだよ…
ちょっと感極まりそうになる自分が居た。
「じゃあ遥、俺と一緒にゲームするかぁ」
その空気を読んだのだろうか、秀人がそう言い放つ。