海で・・ 736
「あら、一馬くん、翔くんのこと知ってるの?」
「ええ…高校で同じクラスなので」
「そうなの」
アヤさんは何か納得したように微笑んだ。
「秀人に聞こえちゃうといけないわね」
「あ、はい…」
アヤさんは部屋のドアを開け、僕を招き入れる。
秀人との寝室なのだろう…
部屋の中央にはキンクサイズのダブルベッドが置かれている。
前にアヤさんに連れていってもらった、あのホテルのスゥイートルームを思い出してしまう。
「翔は…元気にしてる?…」
アヤさんはベッドに腰掛け、僕の顔をじっと見つめてきた
「ええ…」
「よかった、あの子の初めても私が相手だったのよね」
アヤさんは懐かしそうに振り返る。
「秀人と出会う前なんですよね」
「そう…あのころの私、ちょっと…」
「何かあったんですか?」
「その当時に付き合ってた人と別れたり、大学のサークルで無理やりされたり、いろいろあったの…」
「去年の夏ですよね…」
「ええ、もうそんなに経ったのかって感じと、まだそれしか経ってないの?って感じだはね…」
「もしあの海に翔が来ていたら、秀人や僕との出会いは無かったんですね…」
「そう考えると人と人の出会いって不思議だは…」
「はい…僕もミキさんとは知り合っていなかった訳だし…もしかしたら真帆ともこんな関係になってはいなかったかもしれないですよ…」
「そうなの?…真帆ちゃんは関係ないんじゃない?」
「いえアイツ…ずっと秀人のこと好きだったですからね‥」
「そう…運命ってほんのちょっとで変わっちゃうのね」
アヤさんはしみじみと言う。
「翔にも、今は大切な彼女がいますし」
「そうなの…幸せそうでなによりね」
アヤさんは僕の方に顔を向ける。
「翔に、私も幸せになったって伝えてくれる?」
「もちろんです」