海で・・ 74
「待ってたよ、中に入って」
「お邪魔しまーす」
満面の笑みの真帆に対し、笑顔ではあるが、どこか気まずい顔をする美貴と一馬。
「助っ人って、ミキさんだったんスか…」
「真帆ちゃんにお願いされたら断れなかったの…」
真帆に聞かれないよう、小声で話す2人。
先に真帆を部屋に入れる。
「真帆はコーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「うーん、紅茶かな」
「じゃ、作ってくるから待ってて」
「はーい」
「私も手伝おうか、一馬くん」
美貴も一馬についていく。
キッチン。
美貴は一馬の隣に立つ。
「…二股かけてたと思わせたら、ごめんなさい」
「ううん、そんなこと全然思ってなんか無いよ」
「彼女は、もともと秀人と付き合ってたんです」
「そうなんだ…」
紅茶を入れながら、美貴は一馬に話しかける。
「一馬くんがたくましくなったのは、真帆ちゃんのおかげかもしれないね」
「そう、ですかね」
「うん、一馬くん、夏に会ったときより、ずっと男らしいもの」
「…ホントかなぁ」
「真帆ちゃんとも、してるんだよね」
「うっ」
「いいよ。怒ってなんかない。それより、私、真帆ちゃんに感謝したいくらいなんだから」
美貴はニッコリ微笑んで一馬を見る。
その美貴の笑顔を一馬は直視できなかった。
「(ミキさんは、知らないんだろうな)」
自分と真帆が血の繋がった姉妹であることを。
そして、一馬はその事実を知って、二人と関係を持っていることを。
そう思うと、一馬はより美貴に対する申し訳なさが強くなり、言葉が出なくなる。
「それはそうと」
美貴は話を続ける。
「一馬くん、F高の合格ラインに届いてないんだって?」
「あ、え、はい…」
「真帆ちゃんと一緒の高校に通うために、頑張らないと!」
「は、はい!」
「…わ、私も春からはF高で先生になるんだしっ…」
美貴の顔が赤くなる。
「(可愛いな、ミキさん)」
立場を忘れて、照れる美貴に見とれる一馬。
紅茶を持って真帆の待つ部屋に向かう。
しばらくは2人の関係については忘れて、勉強に集中する。
2人がいるおかげで、思った以上に勉強は捗った。
今までわからないで放置していた問題も2人が教えてくれて解くことが出来た。
ミキさんにも真帆にも感謝するほかない。