海で・・ 717
「一馬ぁくん!載って載ってぇ!」
駅近の交差点、混み合ったここでの停車はかなり迷惑だ。
僕は後ろの車に頭を下げ、助手席に飛び載った。
「あーびっくりしましたよぉ!もう身体の方はいいんですか?…」
芸能人みたいな大きなサングラスをしたアヤさんの顔を覗き込む。
「心配してくれてありがとう。もう大丈夫よ〜、やっと自由に動けるってものよ!」
「そうですか…娘さんは?」
「とっても可愛いわよ…毎日見てても飽きないくらいね」
アヤさんの瞳はキラキラして見える。
日常が充実している証拠だろう。
「てか、娘さんほって置いていいんですか?…」
これって素朴な疑問だよね。
「それは心配ご無用よぉ。何たって育児のプロを何人も雇ったんだもの…」
あ、アヤさんの家は大富豪だったんだよね;
「それじゃあいつもこうやって?…」
“遊び歩いてるの?…”って言葉は、流石に言えなかった;…
「こんな格好だと勘違いしちゃうよね…私も仕事で忙しいときもあってね…」
アヤさんの言葉で僕はハッとする。
長女の唯さんが別の道を歩んでいる今、後を継ぐであろう存在はアヤさんなんだ…ちょっと、いやかなり申し訳なかった。
そう考えるとアヤさん、仕事できるバリバリのキャリアウーマンにめ見えるなぁ…
「それゃあ私だって愛する娘と一分でも一緒にいたいけど、なかなかそうもいかなくてね…」
「…アヤさんも大変ですね。」
「もう、仕事してても少しでも早く家に帰りたくなっちゃうのよね…」
あのアヤさんがこんなにも子煩悩になるなんて、子供の力って目茶苦茶凄いんだな…