海で・・ 708
そんな風に過ごしたその日の放課後。
僕は1人で図書室に足を運んだ。
おそらく最も僕とは縁の無い場所…そこに行くのには、一つの大きな理由がある。
忘れることができかけているとはいえ、誰かに唯とのことについて相談に乗って欲しかった。
「一馬くん、お久しぶりです」
あの時と変わらず、彩花は僕を迎え入れてくれた。
別に唯の代わりに彩花を利用しようと思った訳じゃないんだ…
ただ女の子の心理について教えてくれる適任者は、彩花以外にいないと思ったんだ。
唯の名前は出さずに、一通りの話しを彩花に打ち明ける…
彩花は僕の話しが終わるまで、何も話さずに熱心に聞いてくれる…
「なるほど」
話を聞き終えた彩花は、パタンと本を閉じ、僕に微笑みかける。
「彼女なりのけじめのつけ方だったんだと思うかな、私としては」
「そうか…」
「彼女も、一馬くんとその彼氏さんとの間で、とても気持ちが揺れて苦しんでいたと思うよ」
「だよなぁ…」
いつも明るいフリして、唯はホントはすごく苦しい思いしてたんだな…
「真面目な子だったんじゃないかしらその彼女…本当の彼氏さんに嘘はつけないっていうか…」
「でも僕よりも彼を選んだってことには代わりないよな…」
「まあ、短絡的に見るとそういうことになるけど、どうしてもどちらかを選ばなきゃならなかった彼女の気持ちも分かってあげなきゃ…」
「う、うん…、諦めるしか仕方ないのは…分かっているだ…」
いつまでも唯に固執しているわけでもないし、それではダメだとも思っていた。
でも、それでも、不思議とガッカリする気持ちがあるし、肩の力も抜ける。
「一馬くん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫…彩花が気にすることじゃないさ…」
彩花は僕の肩を支える。
「彼女の気持ちはわからない。でも、私は、一馬くんからは離れないから、安心して…」