海で・・ 653
…あの表情はなんなんだろうなぁ。
お姉さんから何か聞いているんだろうか。
工藤さんと千葉翔と、2人の視線が気になる中、時間は進み昼休みを迎える。
…今日から僕の昼休みも過ごし方が変わる。
会社を辞め、父さんに尽くすことを決めたあかりさんが、父さんだけでなく僕にもお弁当を作ってくれたのだ。
とは言え皆と机を寄せ合い、仲良しこよしで弁当を食べるのもなんだか性に合わない気もした。
それに初音や茜に、毎回弁当の批評をされるだろうことも分かり切っていることで、それを考えると面倒臭かった。
僕は弁当の入った袋を皆に見るられないようにして、以前唯に連れて行って貰ったあの屋上に向かった。
日差しが眩しい。
それでも、雨が降っているよりはマシだ。
「誰もいないかな?」
周囲を見回し、僕は入り口とは反対側の場所に向かう。
唯と2人で来たときも、ここには誰も来ていなかったから…
「えっ?」
「あ…」
…まさかの先客。
しかもそれは…
「あ、一馬くん、だよね…」
演劇部の先輩、二宮環さんだった。
「あっ、二宮先輩…一人で弁当すか?…」
膝の上には、女の子らしい小さな弁当箱が乗せられいた。
「ええ、時々ここで食べているんだぁ、よかったら横、どうぞ…」
「あ、それじゃお言葉に甘えて、お邪魔させて貰っちゃおうかな…」
「クスッ…遠慮なさらずに、どうぞどうぞ…」
先輩の隣に座り、弁当箱の入った袋を開けて取り出す。
「お母さんの手作り?」
「まあ、そんな感じです」
…事情が複雑なので本当のことが説明しにくい。
「先輩こそ、一人でお昼なんですか?」
「一人になりたい時もあるのよ」