海で・・ 65
「ミキさん、何があったんですか?」
「…なんでもないよ」
何かを隠しているようなミキさんの態度に、僕は納得がいかなかった。
いつもなら僕を引っ張ってくれる明るいミキさんが、今日はいつになく暗い。
「ミキさん、何か、あったんですよね?」
相変わらず黙ったままのミキさんに、続けて言う。
「ミキさんと僕は、付き合ってるんです。お互いの気持ちをわかりあいたいんです…ミキさん、悩んでますよね?」
ミキさんの身体が、ピクッと動く。
「僕は、ミキさんの力になりたいんです。ミキさんに何かあったら、僕がなんとかしたいんです。ミキさんは、大切な存在だから…」
そのとき、ミキさんの表情が変わった気がした。
ミキさんは、僕の方を向くと、たちまち大粒の涙を流して、僕に抱きついた。
僕の胸の中で、ミキさんは子供のようにわんわん泣いた。
そんなミキさんを、僕はそっと抱きしめ、髪を撫でてあげた…
一馬の優しさが嬉しかった。
胸の中はいつにも増して暖かかった。
この日溜まりの中に、いつまでも漂えたらどんなに幸せなんだろう・・・
そう思うほどに、涙が溢れ出てきた・・・
一馬ほどの優しい男には、今後出会えはしないのだ・・
迷わない訳は無かった。
自分好みに鍛えればそれでいいのだと、自分を何度も納得させた。
それでも・・美貴には"今"必要だったのだ。
何ヶ月後・・もしくは何年後・・そんな歳月を掛けて一馬を"男"にする・・・
それは今の美貴には壮大な時間にしか思えなかった。
せめて・・別の誰かと寝ることを一馬が許してくれたら・・・
そんなことを言える訳がなかった。
自分1人に全身全霊の愛情を注いでくれている一馬・・・
たとえこの先、一馬が浮気するようなことがあったとしても、恋人がありながら男が別の女を抱くのと、恋人がありながら女が別の男を抱くのとでは、大きな違いがあることは美貴には分かっていた。
「ミキさん…」
「一馬くん…」
お互い、顔を合わせる。
そして、唇が重なる…
期待はしていない、するつもりもない。
だけど、心の奥底では一馬を求めている。
美貴の手は、そっと一馬の股間に伸びる。
「嘘…何これ…太くて硬い…」
一馬の分身は元気を取り戻したかのように勃っていた。
しかも、美貴が思っていた以上に…
一馬は美貴と交わる以外に、真帆とも何度も交わっていた。
真帆が一馬を男にしていたと言っても過言ではないくらいに。
一馬とて苦しかったのだ。
真帆と寝ていることを美貴に言ってはいなかった。
例え、分け隔てなく2人を愛する・・幸せにすると思っていても、それを口には出し難かった。
それにも増して・・2人は姉妹なのだから・・
そのことが気がかりで、頭に登った血は下には降りてはこなかったのだ。
それが、美貴の涙を見てその思いは吹っ切れたと言ってよかった。
ミキさんを支えたい・・
その思いと共に、今まで塞き止められていた血液は、大量に股間へと集まってきていた。
美貴の眼が驚いたように見開かれるのを見て、一馬は節操のない自分を顔を赤らめて恥じた。
「素敵。逞しいね…一馬くんの…」
うっとりした顔を浮かべ、美貴は優しく言う。
「ミキさん…」
「一馬くんの、優しいところも、その逞しいものも、みんな大好きよ」
「ミキさん…」
今度は一馬が泣きたい気持ちに駆られる。
「どうして泣くの!?」
「…嬉しいです…ミキさんが、僕のこと、大好きなんて言ってくれるのが…」
「当たり前よ…私がこの世で一番大好きなのは、一馬くんよ」
「み、ミキさん…!」
一馬は勢い余って美貴を押し倒してしまう。
「いいよ…そのまま、して…」
「…でも、僕、ミキさんに何があったか…」
「後で全部話すから、今は私を抱いて」