海で・・ 631
話せば長くなるし複雑になる。
「この前、秀人は父親になったんだ」
「ああ…小島のお姉さんがね…」
「うん、その人も、去年の夏に出会った人なんだ。そのときにいろいろあって…」
「そうか…」
再び演劇部の活動場所に戻る。
「涼だって、気になってる人に思い切って気持ちを伝えてみるといいよ」
「ああ、そうできればいいんだけど…なかなか踏み出せなくてさ…」
「何言ってんだよ…涼と付き合いたいと思っている女子は、ご満といるぜぇ」
芝居を観ながら眼を輝かせていた女子の顔が蘇った。
「でもよ…いざとなった時のこと考えるとよ…」
「いざって何だよ?…」
「俺さ…人より小さいだろ…」
そっちの話かよ。
「お前、それを気にして…」
「だって、男として恥ずかしいじゃないか!」
「前も言ったけど、結構年上の人って、そういうことには優しいし、男として大切なのはナニの大きさじゃないんだよ」
「そうなのか?」
「ああ…多分…」
「多分って何だよ…」
「僕だって励まされ立場だからさ、女の人って僕たち男がこだわる程、そんな気にしちゃいないんだってよ…」
「そうなのか?…」
「だから多分って言ってるだろ…」
演劇部の小屋に戻ると、後片付けをしていたところだった。
「あ、すいません、手伝わなくて」
「いいよいいよ、私たちで出来るからさ」
植田先輩や成美、小春さん環さんらが机をしまったり食器を洗ったりしていた。
涼は植田先輩に近づいて、何か会話を始めた。
…アイツはアイツで、努力すれば何とかなるんじゃないかな。