海で・・ 630
「ん?…それって成美のこと?…」
「ああ、板野先輩…なんかぐいぐい引っ張ってくれそうじゃん…」
確かに…今日の観劇も成美が強引に誘ってくれていなかったら、観ていなかったよな…
「涼ってさ、僕と似てるところあるよな…」
「うん、なんとなくそう思った…」
否定されるかと思ったら、ちょっと違った。
「でも、一馬はやっぱり違うな。今の俺には、踏み出す勇気がない。それを一馬は、半年以上前に、中原先生にしているわけだから、やっぱすごいよ…」
「そうかな?」
「ああ、絶対そうだよ…」
「そんなことも無いよ…僕は踏み出してなんかいない…多分流されただけだと思う…」
僕は足を止め、廊下の窓から外を眺めた。
「でも去年の夏、中原先生をナンパしたんだろ?…」
涼は顔を寄せ、小さな声で言う。
「あれも僕の意思じゃない…海にナンパしに行ったんだって、友達に誘われたから仕方なく行ったんだ…」
「この間話してた、秀人くんってのか」
「ああ、あいつが誘ってくれなきゃ、中原先生と付き合うことなんて出来なかったよ」
「でも、一馬だって十分素質はあるんじゃないか?」
「どういう素質だよ…」
教室まで来た。
自分のカバンを取ってすぐに出る。
「実はさ」
「うん」
「その秀人、真帆の元彼なんだよね…」
「それはそれは…;でも信藤は一馬を選んだってことだろ?…」
「いや…そういう訳でも無いんだ…信藤が秀人に振られてから、僕と付き合ったって訳でさ…」
「信藤が振られた?!…おいおい;その秀人って奴、何様なんだよ…」
「アイツはアイツなりに、その時いろいろあって仕方なかったのさ…」