海で・・ 621
…まあ、僕らはあくまで観覧だけ、ということなら、そこまで問題にはならない、と思いたい。
成美のせっかくの誘いも断ったら失礼だし。
『じゃあ、行きましょうか?』
『ありがとう!楽しみにしてるね!』
そんな訳で次の日の放課後、早速植田先輩と茜が書いたと言う新作を、観に行くことになってしまった…
「ゴメンゴメン、待った?…」
待ち合わせの下駄箱の前に、成美は走ってやって来た。
「そんな焦らないでも大丈夫ですよ。僕も今来たところですから…」
「うふふ、楽しみだね〜」
「そうですねぇ」
…楽しみであることは確かなんだけど、暴走したら歯止めが利かない2人だけに、不安も半端じゃない。
「ごめんね、昨日はホント大丈夫だった?」
「僕は全然。他の皆さんのほうが心配ですよ」
演劇部の活動場所に向かいながら、成美に尋ねてみた。
「皆、元気に登校してきたし、それは大丈夫だと思うよ。…」
「アイツらは停学になったんですよね?」
「そう、部活も暫くは活動停止みたいだから、シンクロ部員たちは悠々自適にプールが使えるわけ!」
成美は声を弾ませ、僕の腕に手を絡ませてくる…
「まあ“よかったですね”って言うのも変ですけど…」
何と言っていいか言葉に迷う…
「だから、今度こそ、一馬に私たちの演技も見てほしいの!」
成美は楽しそうに言って、僕の腕をぐいと引き寄せる。
「素人の僕が見てわかるものかな…」
「誰か見てくれる人がいると、気合が入るんだよ!」
…そういうもんかね。
でも、子供のように嬉しそうに話す成美の顔を見ると、断る気は起きないなぁ…