海で・・ 617
その後も由佳里さんは僕にとっての憧れの女性だった。
あの夏、ミキさんとアヤさんと出会う前までは。
「一馬くんは、付き合ってる人と子供とか、想像する?」
「いえ、まったく…」
「そうだよね。秀人が早過ぎたんだよね」
由佳里さんは隣で笑った。
そう、今度あかりさんにも子供が産まれるけれど、それはやっぱり僕の子供って訳では無いしね。
「秀人は偉いと思いますよ。やっぱりそれなりの覚悟がなきゃ、父親になることなんて出来ないと思います…」
「うんそうね…でも秀人にとってはこれからだと思うの…男ってこれが自分の子供なんだって、なかなか実感が湧かないって言うし…」
10ヶ月も自分のお腹で育んで、その上大変な思いをして出産する女の人に比べて男は、射精の快楽感しか味わっていないんだもんな…
なかなか父親になれないっていうのも、分かるよな…
「僕は、秀人を信じていますから」
「一馬くんは変わらないね」
「アイツのことは、一番よくわかってるんです…今日も、僕に真っ先に連絡くれたんですから」
「そうね…私も一馬くんと一緒かな…秀人のこと、信じてあげたいの…」
心優しい姉の目だった。
「由佳里さんと秀人を見てると、姉弟ってホントいいなぁって思いますよ…」
「一馬くんは一人っ子ですものね…」
「僕も由佳里さんみたいなアネキが欲しかったです…」
「そう?…」
由佳里さんはウィンカーを出し、ゆっくりと車を止めた…
「ど、どうしたんです?」
「ふふふ、姉弟じゃ…こんなこと出来ないでしょ?」
由佳里さんは指を立て、僕の膝から太腿を…スッーと擦り上げてきた。
「ちょっ、由佳里さん…それは、冗談がきついですね…」
由佳里さんは可愛らしく微笑む。
「私は、一馬くんみたいな彼氏が欲しいかな…」
「僕みたいな、って…」
「秀人を見てたのに、どうしても意識するのは彩ちゃんなの…私もああやっていたらいいなぁ、とかね…」