海で・・ 58
「実はね。うちのお父さんも15の時に子供が出来たの・・それが私よ。」
「え?15の時って、僕らと同い歳の時に?!」
確かに、雑誌で見たこともある、唯さんとアヤさんのお父さんは若かった。
「ええ、だから秀人くんのことを無碍に突き放すことは出来なかったんだと思うは・・」
「そうなんですか・・だから秀人を・・」
「もちろん秀人くんを"1人の男"として見込んでこそのことだと思うけど・・」
("1人の男"か・・)
僕は何やかんや言っていても、秀人の男としての魅力は誰よりも分かっている。
もしも自分が女だったとしたならば、秀人のことを絶対に好きになっていただろうと思えた。
そんな訳で、秀人が義理のお父さんになる人に、少なからずとも見込んでもられたことが、無性に嬉しかった。
僕は携帯を握り締めたまま空を見上げ、込み上げる涙を必死で止めようと努めた。
「彩ちゃんと私は明後日には帰ってくるから…あ、そうだ」
唯さんが何かを思い出すように言う。
「何です?」
「一馬くん、確かK高が第一志望だよね」
「ええ」
「やる気が出る朗報があるよ」
「はい…?」
何なのだろう。
「美貴ちゃん、今K高で教育実習中なのよ」
「うっ...」
「一馬くん?泣いてるの?」
変わったのだろう、その声はアヤさんだった。
「嬉しいんです・・僕、秀人がちゃんとできて・・それにミキさんまで教育実習してるなんて、ホント嬉しくて・・」
こんなことは始めてだった。
今まで辛くて涙したことは幾度となくあったが、嬉しくて涙したのは始めてだった。
「一馬くん、やっぱ優しいね・・
前にも言ったでしょ?、あの海で一馬くんと寝ていれば、私の人生も違っていたかもしれないって・・今までそう思っていたのよ。
でもね、今、一馬くんの泣き声聞いて、秀人はホントいい友達を持ったんだなって・・
私も一馬くん以上の愛情を秀人に向けなくちゃなって、反省しちゃった。」
「あ、愛情だなんて・・・」
「変な意味じゃないよ。一馬くんがちゃんと男の子なの美貴から聞いて知ってるし・・」
アヤさんはクスっと笑った。
「でもね・・愛するのにこだわりはいらないよ。それが世間でいうモラルに反することだって、自分を信じてさえいればね」
アヤさんは、ミキさんと真帆の姉妹両方を愛した、そのことを言っているのかもしれないと僕は思った。
「一馬くんなら、美貴も、その妹の…真帆ちゃんだっけ、両方幸せにできると思うよ」
「そう、ですか…」
「うん、一馬くんなら、きっとできるよ」
「…ですね。頑張ります」
アヤさんに背中を押され、僕はいろいろな意味で頑張らないと、と思い、涙を拭いて教室に戻った。
ふぅ…
ため息混じりに机にうっぷせながら、子守唄のような先生の話しをぼんやりと聞く。
午後の陽射しが差し込み、窓際の空いた秀人の机が輝やいていた。
「モラルに反するか…」
秀人の空席を見つめ、一馬は目を細める。
二人の女を同時に愛し、しかもそれは血を分けた姉と妹…
それは確かに、世間から見たら、男同士で恋愛する奴らと同じように、モラルに反する事なのだろと思った。
『両方幸せにできる』・・ミキさんは言ってくれた。
(そんなこと、僕にできるのか…?)
二人の顔が脳裏に浮かび…それが二人のおっぱ○に変わる…
モソっと股間が動く・・
一馬は隣の奴に気づかれないように、ポケットにそっと手を突っ込んだ。