海で・・ 55
「一馬には謝らなきゃいけないことがたくさんあるからな…」
秀人が立ち上がる。
そういえば、秀人は制服ではなく、私服姿だった。
「お前、学校には行かないのか?」
怒りを押し殺しながら尋ねる。
「ああ…というより、もうこの学校には行かないだろうな…」
「えっ…それって、どういうことなの…?」
今度は真帆が秀人に尋ねる。
「来年の春、引っ越すことになったんだ」
その言葉を聞いて、僕と真帆の頭の中は真っ白になった。
「引越すってどこにぃ?!」
真帆の声は動揺していた。
その声は、真帆が秀人に対しての思いを吹っ切れてはいないことを物語っていた。
秀人はパンパンと尻の汚れを払った。
腰で締めたベルトの上からCKのロゴが、見ろと言わんばかりに出されていた。
それは洒落っ気づき始めた半年前に、一馬とお揃で買ったボクサーパンツだった。
たった半年・・一馬は感慨深くそれを見つめた。
6ヶ月前は秀人とて童貞だったのだ。
そして自分はその間に3人の女の人を知り、真帆と寝たことで秀人とは穴兄弟になったのだ・・
普通に暮らしていれば通過していく半年ではあるが、この半年は自分にとって凄い貴重な6ヶ月間だと思えた。
「どこに行くんだよ・・」
一馬はふて腐れたようにボソリと呟く・・
人1倍気になっている癖に、秀人との関係は近過ぎてなかなか素直になれない・・
秀人は尻ポケットからボックスを取り出すと、フィルターをジッポで灯した。
「シカゴ・・・・」
「?・・・・・シ!シカゴって!?どこだよぉ!?」
一馬は声を荒げていた。
「アメリカに決まってんだろ・・アヤさん家に世話になるんだ・・」
「・・・?・・・うぇ@@???アヤさんって?・・・あのアヤさんかぁ!!?」
「ああ…アヤさんにも散々迷惑かけちまったし、俺が孕ませてしまったってのもあるんだけど…」
秀人がアヤさんとの関係を続けてくれるのは素直に嬉しい。
しかし、まさか二人でアメリカに移り住むなんて…
秀人の決意は、ある種『男のケジメ』として納得ができた。
しかし、それは僕が、であって、隣で呆然としている真帆にとっては、別問題のことだった。
「秀人くん…」
真帆が声を絞り出す。
「悪いな…真帆…」
「私、どうすればいいの…?」
真帆の声は涙混じりだった。
秀人は僕のほうを向いて言う。
「一馬…真帆のこと、お前に任せたいんだ…」
「秀人…」
「ワガママかもしれないけど、託せるのはお前しかいないんだよ…」