海で・・ 437
あれはたまたまだったわけだし、ミキさんだって狙ってやったわけではあるまい。
結果見られてしまったのは事実だけど、今朝初音から言われた工藤さんのことも考えると、少し前向きになろうとも思った。
「女子の競技だし、鈴木くんが試合に出ることはないと思うんだ」
「はい…」
「毎日練習するわけじゃないし、鈴木くん、マネージャーみたいな感じでみんなを見ていてくれたら、私も嬉しいんだ…」
「あ、はい…」
あんな海パンを掃かなくていいのは救われけど…やっぱ男の僕がマネージャーってのもなんだか気が乗らない…
「ダメかな?…鈴木くんみたいな男の子が側にいてくれると…心強いんだけどな…」
上目遣いで瞳を見開く板野先輩…
なんだかめちゃくちゃ可愛いんですけど…;
「うーん…もうちょっと、考えさせてください…」
こんなに可愛くお願いされると、すぐに断ることなんてできない。
「うん、いつでも待ってるから」
またニコッと笑った板野先輩。
ああ、表情がコロコロ変わって、こんなに可愛い先輩、いませんよ…
「そういえば、鈴木くん、陽菜ちゃんと同じクラスなんだよね」
「はい。中原先生が副担任です」
「うん、美貴センセは優しい人だからいいの…でもね、君たちの担任、あの男は要注意なの」
板野先輩が、途端、険しい顔をする。
「それって、藤堂先生がですか?…」
誰か別の先生と間違っているのかと思った…
だって藤堂先生は男子からは兄貴のように慕われているし、あのイケメンぶりに女子の誰もが憧れを抱いているのだ…
「そう藤堂…水泳部顧問の藤堂よ…」
板野先輩の声が震える。
「鈴木くんたち1年生はまだ入ったばかりで知らないと思う…あの爽やかな見た目に騙されちゃダメだよ…」
「それって…どういうことです?」
「ちょっと、ついてきてくれる?」
そう言われ、板野先輩の後に続く。
「静かにね」
小声で、忍び寄るようにやってきたのは校舎の端の教室。
「あの、藤堂先生…私たちに何を…」
「どうしてここに…」
香織さんとみゆきさんの声が…