海で・・ 348
そう思うと、あかりさんがこの家に入る抵抗心は消えていく…
だけど…困ったことに、そんなあかりさんに対して僕の下半身だけは、あの倉庫での出来事以上のことを期待していた…
「身体暖めて、ゆっくりと休んでね…」
香り登るマグカップを差し出し、あかりさんは優しく微笑んだ。
「父さんは?」
「奥様のご家族のところに行ったみたい…夕食が一緒になるかもちょっとわからないって」
「そうなんだ…」
「大変だよね」
…向こうの方からしたら、あかりさんはいったい何者?と思われるだろう。
まさか"愛人"だなんて、誰にも言える訳ないもんな…
そう思うと父さんが気の毒にもなる。
だって父さんだって普通の"男"なんだから、病床の母さんを抱けない生活が何年も続いていたところにあかりさんみたいに魅力的な女の人が現れたら、寝たくなるのは当然だもんな…
あかりさんはコーヒーを飲み終えて自分の仕事に入っていく。
…なんでも出来る女の人ってすごいな。
僕はその様子を見ながらあかりさんが入れた紅茶を飲む。
身体の芯まで染み渡るような温かさだ。
「…私も着替えようかな」
あかりさんがそう言って部屋を出る。
空になったマグカップを洗面台に戻すと、シンクにはあかりさんの飲んだコーヒーカップがまだ洗われずに置かれていた。
手に取り何気に見つめると、縁には僅かな口紅の後が残っている…
僕は辺りを見回し、あかりさんがいないことを確認する…
心臓が高鳴った…
カップを持つ手を震わせながら…僕はそれにそっと舌を伸ばした…