海で・・ 342
「いえ、今日はずっと一馬の側にいるんで…」
「いいよ秀人。そんな気使うなよ…」
「違うんだ…俺もおばさんのこと、心配だから…」
「あ、ありがとう…母さんも喜ぶよ…」
秀人と父さんと三人で病室に戻る…
やけに静かだった…
「母さん?…」
眠ったようにしか見えない母さんは…息をしていなかった…
「え、えっ?…母さん?」
「おばさん?おばさん!…ま、マジかよ」
秀人と2人、呆然と立ち尽くす。
「ま、待ってろよ、今先生を呼んでくるから…!」
父さんは大慌てで病室から出て行く。
そう…あれが、母さんと話した最後の言葉だった…
「母さん…」
そう言うしかなかった。不思議と、涙は出てこなかった…
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こうして僕は、まだ試着しかしていない真新しい制服を来て、そして…まだ通ってもいない高校の忌引きを使い、母さんの為のお経を聞いていた…
入学式にはいかなかった…
父さんは、顔だけでも出して来ればと言ってくれたけど、あれからろくに口も効かない僕をみて、それ以上は何も言わなかった…
ミキさんも真帆もアヤさんも唯さんも、僕のことを案じてくれた。
母さんの葬儀にも来ると言ってくれたが、その言葉だけで嬉しいと返し、断った。
…母さんがいなくなったという事実を受け入れなければいけないけど、僕はそうする気持ちになれなかった。
「一馬くん…」
そんな僕のところにやってきたのは、あかりさんだった。
あかりさんと会ったのはついこないだなのに、それは随分と前に思えた…
「すいません…忙しいのに…」
「ううん…今日は会社からのお手伝いとして来ているから、気にしないで…」
髪をアップにして、黒い服を着たあかりさんは、こないだ会った時よりも随分と大人びて見えた…