海で・・ 35
「彩ちゃん、今ちょっと困ったことになっちゃって・・」
森中先生は何時に無く小さな声で、僕の目を見た。
「困ったことって?・・・」
僕も目を反らす事無く、その茶色がかった森中先生の目を見返した。
「これは鈴木君の担任としてではなく、彩ちゃんの姉としての相談なんだけど・・」
「はあ・・・」
森中先生は軽く深呼吸すると、意を決したように、ハッキリと言った。
「彩ちゃん、できちゃったのよ。戸山秀人君の子供・・・」
ぐげっ!?・・それってヤバいだろ・・
(『やっぱ、ナマは最高ぅしょぉ〜!♪』)と言っていた、秀人の顔が蘇った。
「直ぐに秀人に連絡しないと・・」
僕は携帯をポケットから取り出す。
「だめなのよ、あの事件以来、音信不通・・家にも帰っていないは・・」
秀人のことだから、どっかの女の家にでもしけ込んでいるのだろう・・
「鈴木君は・・ちゃんと避妊してる?」
(へぇ?・・そっちですか?)
考えてみたらミキさんとの時に、スキンを着けたことは無かった。
「あ、あんまし・・」
僕は正直に答えた。
「ダメよ。ちゃんとしなくちゃ・・着け方教えてあげるから、こっち来なさい・・」
先生は僕の手を引いて、教室を出る。
連れられて移動している間、ふと思った。
森中先生は、アヤさんのお姉さん…
だから、アヤさんと親友であるミキさんのことを知ってるはず、と。
「ここなら誰も来ないわね」
先生とやってきたのは、『資料室』。
今まで一度も入ったことのない場所。それもそのはず
「基本的に先生しか入っちゃいけない場所なんだけどね」
先生が悪戯っぽく笑う。
この顔、ますますアヤさんに似ている…
「あの、先生、いったい何を…」
僕の問いかけは思いがけない形で遮られた。
先生が、僕に、キスしてきたのだ。
「先生…」
「彩ちゃんや、美貴ちゃんが惚れるのも分かる気がするわ」
先生からミキさんの名前が。
「先生は、ミキさんのこと、ご存知なんですか?」
「ええ。彩ちゃんの親友だもの。よく知ってるわよ」
先生は話を続ける。
「もちろん、鈴木くんが美貴ちゃんとお付き合いしていることもね」
「そうですか…」