海で・・ 34
これは…もしや…
信藤さんの自慰を見て射精してしまい、どうしようもなくなって靴箱近くのゴミ箱に捨てた僕のパンツか…
「…まあ、深く問うのはやめておこう」
木崎さんはほぼ無表情でそう言う。
慌てた僕は野上さんから紙袋を引っ手繰って鞄にしまう。
「…今度の週末、お詫びに新しいの買ってくる…」
「いや、何もそこまで…」
それよりも
「なぜ野上さんがあんなことを…」
「初音も、あのシーンを見たんだよ」
木崎さんが代わりに答える。
あのシーン―僕とアヤさんの校門での一件か。
「それで、鈴木くんがいないところでこの子は『あいつ最低!冴えないくせして女誑かしてるんだよ』とか言いふらしててね…」
「そ、そこまで言わないでよ、茜…」
「ホントのことじゃん」
木崎さんは話を続ける。
「で、初音がいろいろ勘違いしてるもんだから、鈴木くんに関することを説明したんだけど…」
「ああ、まさか…」
「いや、そこまでは言ってない」
(よかった・・・)
信藤さんの件を、野上さんにまで話したんじゃないかと、焦ったのだ。
「僕の方こそ、ごめん・・不可抗力だったとはいえ、嫌な気分にさせちまったんだな・・」
僕は鼻頭をポリッとかいた。
「そ、そんな・・キスなんて今どき小学生だってするのに・・私、大人気なかったと反省してるの・・」
野上さんは俯いたまま、小さく言った。
その姿は普段の活発な彼女からは想像できない程に、可愛かった。
「大人気かぁ〜。私達ってまだ大人じゃないよ。・・・かと言っても子供って訳でもないか・・」
木崎さんが何気に言う。
確かに僕にしてみても、童貞を卒業し、年上の彼女が出来たとは言え、その前の自分とは何ら変わって無く思えた。
―チャイムが鳴る。
…結局、秀人は来ないのか。
今週いっぱいは休むのかな?
教室に担任の森中先生が入ってくる。
20代半ばくらいだが、少し幼い顔立ちで、可愛い先生だ。
…しかし、それよりも気になることが。
夏休み以降、森中先生がアヤさんに似ていると思えて仕方ないのだ…
それはあくまで気のせいとしておこう…と思ったのだが。
―授業後。
今日はとっとと家に帰ろうと思ったのだが
「鈴木くん、ちょっといいかな?」
森中先生に呼ばれた。
…今日も遅くなりそうだ。
だが、進路相談などに関する面談はもう終わったはず…いったいなんだろう。
僕以外の生徒はすべて帰った。
がらんと空いた教室に、先生と二人。
「で、話って何でしょうか」
「うん、鈴木くんは、小島彩ちゃんのことを知ってるのよね?」
いきなり出た、アヤさんの名前。
「…そうですけど、先生とアヤさんは…」
「彼女は、私の妹なの」
…まさか、本当だったとは!
とすると、アヤさんも複雑な家庭で育ったのか!?
「まあ、私が結婚して、家を出て行ったから苗字が違うだけなんだけど」
…そういうことだったか。