海で・・ 338
「紀美子さんよ。紀美子さんから連絡頂いたの…」
「え、お母さんが?」
「ええ、紀美子さんのお友達がここの女医さんをしているらしくて、一馬くんのお母様の担当医だそうなの…」
あの人だ…
「お父様にその方を紹介したのも、紀美子さんらしいは…」
そういえば母さんは、ここ最近この病院に転院したんだ…てことは、父さんと紀美子さんは最近、連絡し合っていることなんだろうか?
「それで父さんから紀美子さんに連絡が入った…」
「ええ、それで私に…」
「そうなんですか…」
「お母さんが…」
ミキさんも真帆も驚きを隠せなかった。
「私はもう戻るけど…一馬くん、お母さん、よくなって欲しいわね…」
「ええ、ありがとうございます」
急ぎ足で戻る梨花さんを見送りつつ、僕らは病院に戻った。
エレベーターを降りると、親戚のおばちゃんが小走りにやって来る。
「あ、お久しぶりです…」
「一馬くん!急いで!早く!…」
おばちゃんが何を言わんとしているのか、即座に分かった…
僕はミキさんと真帆を残したまま、ダッシュで廊下を走った…
父さんの兄…つまり伯父さんの奥さんで、いつも元気で明るい人なのだが。
「利恵ちゃん(=母さんの名前だ)が身体が悪いのは知ってたけど、まさかここまでなっちゃうなんてねぇ」
「ええ、さっき突然、父さんから話を聞いて」
「心配だねぇ…」
おばちゃんは母さんのみ心配そうに案じてくれている。
「ところで、さっき一緒にいた美人さんは誰なんだい?」
「えっ…?」
おばちゃんの言葉に、僕は慌ててエレベーターに振り返る。
ミキさんと真帆の姿は無かった…
…気を使って帰ってしまったんだ…
ミキさん…真帆…本当にありがとう…
僕は下がっていくエレベーターの光に向かい、深々と頭を垂れた…