海で・・ 335
車は少しして病院に着いた。
父さんは担当の先生の話を聞きに行くと言って別れる。
…母さんの病室。
ベッドに横になる母さんは呼吸器を着けられ、僕らがすぐ近くにいるのにも反応することはない。
「…一馬くん」
ミキさんが僕の肩に手を置いた。
「さあ、お母様の側にいってあげて…」
促すように肩を押してくれる…
顔を上から覗き込む…
久しぶりに見た母さんの顔は、随分とやつれていた…
考えてみると、家にいる時だって、話しをする時だって、僕はまともに母さんの顔を見ていなかったと気付く…
母さん、僕だよ、一馬だよ。
そう言っても、母さんが声に反応して目を覚ますことはない。
後悔の念が沸いた。
今までまともに親孝行できたのかどうかと。
今までもまともに母さんの顔を見てなかった僕が、この場に及んでまともにその顔を見れるはずがなかった。
ミキさんと真帆は心配そうに僕を気遣ってくれる。
そこに、父さんがやってきた。
「父さん!…先生は何だって?!…」
僕は詰め寄るように声を荒げた…
「ああ…呼ぶ人がいれば…急いだ方がいいってな…」
「ど、どういうだよ?…それって意味分かんね―よ!呼ぶ人って、それじゃまるで母さんが死ぬみたいじゃないかよ!!」
「…そうだ。辛いかもしれんが、それが現実なんだ…」
父さんは振り絞るように言った。
その声は震えていた…
父さんに詰め寄ることをやめた僕は、自分の無力さを感じずにはいられなかった。
そんな僕を、ミキさんはそっと抱きしめてくれる…