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海で・・
官能リレー小説 - 年上

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海で・・ 30

紀美子さんの顔をうかがう。
その顔は、ミキさんが僕と一緒にいるときに見せる楽しそうな笑顔に似ていた。

さっきまで疑っていたことが失礼に思えてしまった。

「二人の愛があれば、どんな障害も乗り越えられるものよ」
「そうですかね…」
「ひょっとして、美貴ちゃんに引っ張られっぱなしだったのかな?」
紀美子さんが少女のような悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「君も男の子なんだから、立派にリードしなくちゃダメだぞ〜」
「え、ええ…」
この悪戯っぽい笑顔はミキさんも良く似ているな…

「美貴ちゃんのこと、よろしくね。君ならきっと、うまくいくよ」
紀美子さんは、優しい口調で、そう言った。

そしてぽつりと呟いた・・「真帆とじゃなければいいのよ・・」と・・
その声はとても小さく、僕に向けて発っせられたものではなく、何かを確認するための呟きであることは分かった。
それでもそれは、僕の耳には届いていた。

("どうゆうことだ?・・")
紀美子さんは確かに僕とミキさんとの交際には、後押ししてくれるようだった。
あの笑顔は疑いようもない・・・

それなのに今・・"真帆とじゃなければいいの・・"と発せられた紀美子さんの言葉の意味が僕には分からなかった。
それはまるで、僕と信藤さんが付き合いでもしたら、何か問題でもあると言っているかのように、僕には思え・・厭な気がした。

それと同時に、信藤さん本人はどう思っているのかが気になった。
教室で偶然見てしまったあの涙の理由は…
秀人のことを本当に想っているのだろうか?
そして、近いうちに戻ってくるであろう秀人はこの先、どうするのか…

ミキさんという女性がいる僕には関係のないことなのかもしれないが、紀美子さんの言葉は気になった。
…だからといって、今聞くわけにもいかない。
今は、そっと胸にしまっておこう。

―ところで。
僕は、気になっていたもうひとつのことを、紀美子さんに聞いてみた。

「信藤さんには、家庭教師がついているんですか?」
「ええ。真帆もそれから成績が上がったみたいで」
これは事実のようだ。

「ミキさんですよね?・・・その家庭教師って・・」
僕は単刀直入に、今まで溜め込んでいた疑問を口にした。

紀美子さんは薄く目を細めると、ゆっくりと車を側道に止めた。
既に僕の家の外灯の明りが、遠くに見えたいた。

「駐車場でも聞かれたはよね・・美貴ちゃんは私が実の母だと知っているのか?って・・」
サイドブレーキを引く鈍い音が車中に響く。

「答えはノーよ。美貴ちゃんは何も知りはしない・・
家庭教師の件も・・私が家庭教師センターに登録してある、中原美貴の名前を見つけたに過ぎないは・・」

複雑だ。非常に複雑だ。
知らないうちに実の母親の家に出入りし、知らないうちに実の妹の家庭教師をしている…
何も知らないミキさんは、果たして幸せなのか不幸なのか。

紀美子さんは話し続ける。
「ただ…いつまでもこの状況を続けるのも、心苦しいの…。何も知らずに実の母や妹に接してる美貴ちゃんが、気の毒に思えてしまって…」
「本当のことは話せないですか…?」
「話したいとは想ってるの。でも、本当のことを話したところで、美貴ちゃんが真帆や私のことを嫌いになってしまうんじゃないかと、不安で…」
紀美子さんの声が、涙が混じったような掠れ声になる。

「そんなことはないです」
「鈴木くん…」
「ミキさんは、誰にでも優しい人です。簡単に他人を嫌ったりするような人じゃないですよ」
「そう、かしらね…」
「ミキさんを近くで見ていて、その優しさは分かってます。何より、生みの母にも育ての母にも分け隔てなく付き合っている人ですから」
「そうよね…」
紀美子さんの目に、光るものが見えた。

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