海で・・ 268
エンジンが消られ、ヘッドランプの灯りが無くなると、意気なりに真っ暗な世界に引きずり込まれたように何も見えなくなった。
「暗過ぎますよぉぉ〜何も見えないじゃないでぇすかぁぁ」
「ふふ。一馬くん、怖いんでしょ?」
「そ!?そんなんじゃ無いでぇすぅ!こう見えても僕は唯一の男ですからねぇ!」
「何かぁ〜力入ってない?・・その内目が慣れるから、怖がらないでも大丈夫よぉ〜」
「だぁ!?だからぁ〜!!」
…本当に真っ暗なのだ。
辺りに店がある雰囲気がしない。
「あの〜、ホントにここなんですか?」
「ホントにホントよ。じゃなきゃ連れてこないよ」
…しばらくすると、目が暗さに慣れて、少し明るく見えてきた。
「…えっ?」
視界の先に見える建物…なんだかホテルのような…
「あれって…ホテルか何かですか?…」
僕は目を擦りながら、ぼんやりと浮かび上がる建物を指差した…
「そう…今度家でオ―プンするホテルなのよ…」
そうだった…アヤさんの家は、世界各国にホテルを展開しているんだった…
ぼんやりから、やがて視界にはっきり入ってくる建物…
「ホテル?あれが…?」
「すごいでしょ〜?」
アヤさんがニヤニヤしながら言う。
目の前に見えてきた建物…それはホテルとは言い難く、どこか中世ヨーロッパのお城のように見える。
…なんてものなんだ、いったい…
「まだオ―プン前だから誰もいないは…でもパパに頼んでシェフには来て貰っているのよ…」
流石ホテル王の娘…やることが凄いですね…
「なんかロマンチックだはぁ…変に明るく無いところが返って新鮮よね…」
確かにミキさんの言う通りだ…こんな暗闇、なかなか体験出来ないもんな…