海で・・ 27
だからと言って、本当のことを言えるわけがない。
実は僕がお付き合いしてるのは貴女のお姉さんなんですって…
複雑な関係は、僕にもどかしさしか与えていないような気さえした。
なんとなく取り繕って教室を後にした。
別れ際の信藤さんは、ちょっと楽しそうな笑顔だった。
「またね。鈴木くん!今度本物のカノジョさんに会わせてねぇ。」
そう言った信藤さんに、いつかミキさんを紹介する日は来るのだろうか?と思い・・・
それは、もしかしたらすごい近い日になるのかもしれない?・・などと考えた。
パンツを脱いでしまったため、腰部分が落ち着かなかった。
汚したパンツは、鞄の奥に突っ込んである。
(臭せ・・・どっかで、捨てなきゃ・・)
下駄箱を開けると、スニーカーに油性マジックで『ヤリチン野郎!サイテーー!!』と落書きされていた。
それはアヤさんとのことを中傷しているのだろうと思え、僕は人相を変えて辺りを見回す。
既に部活時間も終わり、辺りは静まり返っている。
「なろぉーー!!」
僕は下駄箱に思いっきりケリを入れると、そのスニーカーと汚したパンツをゴミ箱の中に叩きつけた。
やり場のない怒りを抑えながら帰り道を行く。
結局、スニーカーはそのまま履いて帰ることになった。
(これ以外に手段がないのだ)
新しいのを買ってもらうまでは、以前履いていたものを使うしかない。
思えば、いろいろなところで誤解されてきたかもしれない。
それは今回のアヤさんの件だけではなく、他にもいろいろとあったのかもしれない。
しかし、今回のことでアヤさんを恨むというのはあまりにも筋違いだし、何よりアヤさんに失礼だ。
今は、やり場のない怒りを静めるために…
「君が鈴木一馬くんね」
突然、声をかけられた。
通学路の途中にあるスーパーの駐車場。
そこにいたのは、ミキさんに良く似た女性…
「ええと…」
「知らないのも当たり前かな…初めまして。私は信藤紀美子」
そう、信藤さんのお母さん。
そして、ミキさんのお母さんでもある人だ―
「ごめんなさい。突然に声を掛けて・・」
微笑むその顔はどこか寂し気で、それは信藤さんを思い出された。
「い、いえ・・僕も御会いしたいと思ってました。」
僕は照れながらも、瞬時にその全身に視線を走らせた。
年令にしてみたら自分の母親と変わらないと思えたが、その見た目は雲泥の差があった。
彼女が服を脱げば、確実に勃つと思え・・
もしミキさんや信藤さんを抜きで考えたら、僕は悦んでこの年上の熟女と寝れるだろうとも思えた。
スラリとした細身の身体はまるでモデルのようで。
実年齢よりはるかに若く見える。
ミキさんや信藤さんが横にいると『母娘』よりも『姉妹』に見えてしまうと思う。
そして、あの二人はこの紀美子さんと、広隆さんの間に生まれた娘なのだ。
…お互いのいいところが遺伝されているとしか思えなかった。
「真帆と同じクラスだったよね?」
「ええ」
「3年間同じクラスの男の子は君しかいないらしいから、よく話に上がるのよ」
「そうなんですか」
思い出してみれば、そうだった。
ついでといっては失礼だが、岩波さんと木崎さんも中学3年間同じクラスだった。
それだけでも縁が深いと言えるのかもしれない。