海で・・ 258
「あ、別に攻めている訳じゃないです…父さんにこんな綺麗なカノジョがいることを、羨ましく思っていますし…」
「そう言ってもらえると嬉しいけど…やっぱりお母さんのことを考えると…心苦しいは…」
やはりそうだろう…
息子の僕があかりさんの存在を嬉しく思っていたとしても、それは父さんと同じ男だからであって、母さんのことを考えると、そうそう手放しでは喜んでもいられないものかもしれなかった…
「でも、よかった…私、安心したよ。一馬君が、私を認めてくれないんじゃないかとずっと不安だったんだ」
「いえ、そんな…あかりさんは、素敵な人だから…」
少し表情に影を落とすあかりさんに、僕は必死で言葉をつむぐ。
…あかりさんの姿を見て、僕は梨花さんのことを考えた。
梨花さんのお母さんは、梨花さんを生んだ代償に自らの命を落とし、その代わりに梨花さんの前に現れたのは後のミキさん・真帆の母親である紀美子さんだった…
…そのときの梨花さんは、どんな気持ちだったのだろう?
僕を誘惑したあの初めて会った日だって、精神状態は普通じゃなかったしな…
やっぱり男なんかよりも、そういった事柄に対しては、女の方が許せない部分が大きいんだろうか?…
「親父は、会社ではどんななんです?…」
僕はどんな言葉を掛けたらいいか分からず、話題を変えてみる…
「私は一緒に働いているわけでは無いからよくわからないけど、部下の人からは慕われているいい上司って感じね」
「そうですか」
自分の親でありながら、父さんがどんな仕事をしているのかはよく知らなかった。
…仕事自体、難しい内容であったせいもあるかもしれない。
「仕事してるときのお父さんは、家とは違ってかっこいいものなのよ」
確かに普段家にいる父さんは、着古したスワェトを部屋着兼寝間着にしているし、所構わずオナラはするし…
家にいる父さんは緊張感の欠片も無い程、リラックスし過ぎていた。
それでも運動会なんかの中学の行事に来た父さんを見た友達は、『一馬のイケメン親父だな…』と言われることはよくあった。
そんなこと言われてもどんな顔をすればいいのか分からなかった僕は、決まって「でもあの人、仮性だぜ…」と照れ隠しに返答していた為に、今では僕の仲間内では、“一馬の皮っ被りパパ”と、父さんが聞いたら目茶苦茶に怒るだろう愛称がついてしまってはいた…