海で・・ 22
女の口には塀は立てられない・・か・・
僕は木崎さんを呆れ顔で睨んだ。
こうやって段々に噂として広がり、終いには伝言ゲームのように、ありもしない事柄に変わっていきそうで怖かった。
「ここじゃちょっと話しずらいから、屋上行きましょ!」
岩波さんは僕に有無も言わさない勢いで、袖口を引っ張る。
その姉御肌気質は、同性や気弱な男子からはモテるだろうが、一馬は苦手だった。
それでも木崎さんに背を促されて、僕は岩波さんに続くしかなった。
二人の女子に強引に誘われる僕は、端から見たらどう見えるのだろう?
「よぉ!告リかぁ!〜♪」
遠くで秀人が囃し立てる。
「んなんじゃ、ねー!!」
僕は横目で、不思議顔をしている信藤さんを見ながら、秀人に向かって中指を突き立てて見せた。
―屋上。
雲ひとつない青空だが、少し秋風が強い。
「で、話…ね」
「もちろん、真帆ちゃんのことなんだけど」
岩波さんが話そうとする前に、いったん遮る。
「この話は、僕らの間だけの秘密にして欲しい。噂として広まったら困るし、何より信藤さんがかわいそうだから」
「うん、当たり前よ。私だって、他の人に言うつもりなんてないわ」
そういって、岩波さんは僕の反対側―木崎さんをちらりと見やる。
つられるように僕も木崎さんのほうを見る。
「あ、あー…はい、わかってます!もう誰にも言いません!」
睨まれた木崎さんは汗をダラダラ流しながら答える。
「まあ、それはいいとして」
岩波さんが話し始める。
「真帆ちゃんに、7歳年上のお姉さんがいて、そのお姉さんと鈴木君が付き合ってると」
「うん、そのとおり」
「真帆ちゃんのお姉さんと、真帆ちゃんは、お互いに会ったこともないって」
「そう、その前に両親が離婚していて、離れ離れになってしまったんだ」
「やるせない話だね」
木崎さんが口を挟む。
「まあ、救いとも言えるのか分からないけど、ミキさん…僕の彼女は、頻繁に信藤さんの家に来てるそうなんだ」
「仲はすごくよさそうだった」
「そう…」
岩波さんは何かを考えているようだ。
「ヒカル、私たちに何かできること・・・あると思う?」
木崎さんは岩波さんに向かい首を傾げながらも、先程の動揺から覚めやらぬのだろう、徐にジャケットを脱いだ。
ブラウスは汗で身体に貼り付き、水玉模様のブラが透けて見えていた。
僕は目のやり場に困り、さり気なく背を返しながら、木崎さんの胸元から視線を外した。
「でも、私達が首を突っ込むと余計に面倒なことになりそうだし」
岩波さんは言葉を選ぶように、少し間をおいて話す。
「最終的にどうするかは、お姉さんと真帆ちゃんが決めることだから…」
淡々と、それでいて慎重な口ぶり。
「茜ちゃんや私にできるのは、ただ見守るくらいね…」
「そっか…」
木崎さんの口調は少し残念そうだった。
「それだけに、鈴木くんには、お姉さんだけじゃなくて真帆ちゃんのことも考えて欲しいというか」
「うん、わかってる」
ミキさんと付き合ってる以上、僕だってしっかりしなくては。