海で・・ 195
強ちそれも冗談ではないかもしれない。
このミキさんとのセックスが、今日一番のトレーニングだったかもしれないのだ。
…しばらくジャグジーに浸かった後、プールに浮かんだままの海パンを回収し穿いて更衣室に戻った。
ミキさんから「今日のトレーニングはこれで終わり」と言われたので、もう帰るのだろう。
…戻る途中、僕を見て顔を真っ赤にしたインストラクターの斉藤さんが気になったけど。
…汗までかいてたよな…斎藤さん、どうかしたのかな?
僕はその姿をロッカーの前で怪訝に思い出す。
「よっ!少年!。随分と励んでいたようで…」
またしても声を掛けてきたのは、あの男だった。
厭らしくニヤつきながら、ゴ―グル上げる仕草は、イタリア人みたいでキザではあるが、掘り深い顔立ちのこの男には、なんだか似合って見えた。
「今から泳ぐんすね」
「ああ、俺もこれから励むとするかな」
「何にですか」
「ん?まあいろいろとな」
最初に会ったときはミキさんへの接し方とか、若干の嫌悪感を抱いていたが、今はそれもだいぶなくなりつつあった。
「美貴のこと、よろしくな…」
彼は僕の肩に手を置いて、そう小声で言うと、足早にプールに向かっていった。
…悪い人じゃなかったんだな…
僕は、細身でありながら、がっしりと筋肉の着いた広い背中を見送る。
あの人が昔、ミキさんと何かしらの関係があったのだろうことは想像がついた…
もしかしたら、大学に入ってからのミキさんの初体験の相手は、あの人だったのかもしれない?と、何と無く思ったりもした…
今でも、ビジュアル面だけでいうならば、あの人とミキさんは美男美女で、誰が見てもお似合いのカップル間違い無しなのだから…
僕はあの人のようにはなれないと思う。
でも、あの人にとっても自分になくて僕にあるものが存在するのだろう。
後姿を見て、そう思った。
…ミキさんは僕が幸せにする…その気持ちが改めて沸いた。
ミキさんは念入りにシャワーを浴びると言っていたので、もう少し時間はかかるだろう。
ロビーの椅子に荷物を置いてゆったりする。
…ん
その視線の先に、僕を見て何かもじもじする斉藤さんの姿があった。